KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

穂高滝谷・出合から四尾根

2019年09月15日 | アルパイン(無雪期)
日程:2019年9月13日(金)午後~15日(日)
天候:三日間とも
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
一日目 鍋平P13:40-新穂高-蒲田川右俣林道-滝谷避難小屋17:15
 
 さて今回は、出合からの滝谷。昨年7月に挑んだものの条件が悪く、途中敗退したルートのリベンジである。
 まぁリベンジといっても、時期が落ち着いて条件さえ整ってくれたら自分たちにも登れるはずと、それほどの気負いは無い。
 
 まずは準備面。前回学習した点として、今回は二人ともウェアと靴を沢仕様にした。
 前回は最初の雄滝までもけっこう徒渉があり、そのたびに登山靴を脱いだり履いたりしたが、最初から沢靴であればそのまま徒渉ができる。
 かつて登った一ノ倉沢本谷と同様、この滝谷もラバーソールの沢靴の方が効率的だ。
 
 また、ここ数年の記録では温暖化の影響か、9月ともなるとアイゼンは不要に思われたが、直前になってガイドで「ギリギリボーイズ」の佐藤裕介氏のHPを見て思い直し、保険として軽アイゼンを持つ。
 あとは食料も含めて軽量化を図り、私が36L、弟子のヒロイは28Lのザックに納めることができた。
 
 三連休の渋滞を懸念して一日前に年休を取り、金曜朝に小田原発。
 午後1時頃に新穂高へ着くが、平日だというのに既に駐車場は満杯!しかたなく手前に戻って昨年同様、鍋平Pに停める。
 年金登山者が多いのか、それとも働き方改革で休みが取りやすくなったのか。最近は平日でも登山口の駐車場確保がまず第一の関門である。
 
 林道を進み、夕暮れ前には滝谷避難小屋へ。
 本日は先客無く、この時点では我々のみ。遠慮なく小屋内に荷物を広げる。
 遺体が一時安置されることから怖がる人もいるが、小屋内は綺麗に整頓されており避難小屋としては快適である。(ただしネズミは住んでいる。)
 
 
途中見かけた巨大キノコ(左)と滝谷避難小屋(右)
 
 水汲みに沢へ下りていくと、滝谷出合から稜線までクッキリと見え、しばし観察。
 しかし、雄滝の上を見て愕然とする!めっちゃ雪渓が残っているじゃないか!
 アイゼンは持ってきたものの、私は8本爪、弟子は4本爪の気休め程度。前爪無しであの雪渓を越えられるだろうか。早くも「敗退」の二文字が頭をよぎる。
 とにかく明日行ける所まで行ってみるしかない。
 
 その夜の夕食は、前祝いとして猪肉のジンギスカンでスタミナを付ける。
 夜になって単独のおじさんがやってきて、この日の小屋は三人のみの静かな夜だった。

 
夕暮れの滝谷(左)と「猪ジンギスカン(略してシシジン)」(右)
 
 
二日目 滝谷避難小屋5:12-雄滝5:45~7:40-無名の滝8:00-滑り滝9:00~10:40-合流点12:40-スノーコル14:20
 
 朝3時半起床。簡単な朝食を済ませ、薄明るくなった5時過ぎに出発。
 木橋を渡って右岸から歩き始めるが、最初の雄滝まで30分ほどで到着してしまった。
 前回は水量が多く、ここまで来るのに何回も徒渉し、けっこう時間がかかったのに・・・。

 
 
 雄滝の巻きは前回登った滝寄りのカンテではなく、今回はネットでよく見るブロック状の岩が連なっている凹角ラインへ。
 一見、簡単そうに見えるが、取り付くと意外と悪い、というか登りにくい。手頃なホールドが無く、ザックの重さで後ろにひっくり返りそうだ。
 しばし躊躇した後、空身で突破。
 置いてきたザックはロープに結び、弟子には一緒にフォローしてもらう。

 
 
 そのまま木登りピッチをツルベで登り、雌滝が望める小尾根の頭に出た後、今度は右手の雄滝落口へ向かって草付きトラバース。
 前回はこのトラバースも湿った草付きで滑らないようけっこう気を揉んだように覚えているが、今回は踏み跡も明瞭で特に問題無くスタスタ歩けてしまった。
 思ったよりも早い時間に雄滝を越えて一安心。さらにその上で懸念していた雪渓が実は白い岩肌だったことがわかり、これはラッキー!
 今回一番の不安材料は落石と雪渓のブロック崩壊だったが、雪が無ければかなり有利に事が進む。

 
 
 しかし、やはり甘かった。その一段上の「無名の滝」で巨大なスノーブリッジが出現。
 本流をアーチ状に跨いでいて今にも崩れ落ちそうだが、幸い雪に厚みがあり、ここは素早く潜って突破する。
 ホッとしたのも束の間、その後、別の箇所で雪渓の一部が大崩壊。物凄い破壊音が響き渡る。やはり滝谷は怖ろしい。

 
 
 

 そして滑(ナメ)り滝。
 ここはネットの記録でも楽に通過できる時とイヤらしい時があるようだ。
 大まかに三段に分かれるが、まず一段目は左岸から。
 スラブをラバーソールの沢靴でペタペタ行くが、水流沿いは黒ヌメがテカテカ光り、いかにも滑りそう。
 自然と乾いた上へ上へと追いやられてしまう。
 残置ハーケンは疎らにあるが、どれもこれも年数が経ち、半ば浮いているものばかり。強めにテンションかけたらポロッと抜けてしまいそうだ。
 けっこうランナウトしつつ、適当な所で自分のハーケンを一本ガッチリと打ち足し、ピッチを切る。

 続く二段目。けっこう岩が立ってきて、またホールドも逆層気味。
 弟子が自信ないようなので、ここも自分がリードする。
 A0も使って一段上がり、その後、水平トラバースだが、途中でランナーが取れない。ここはリードもフォローも絶対に落ちれないところだ。
 グレード的にはせいぜいⅢ+~Ⅳ級だが、気持ち的にはルート中、一番シビレた。

 
 
 続く三段目は水流渡って右岸側。
 乾いているが、思ったより立っている。爪先に余裕のある沢靴なので、慎重に登った。
 とりあえず、これで下部の核心は全て越えたはず。しかし逆に、ここまで来るともはや退却不可能となる。
 振り向くと、いつの間にか後続パーティーが一組近づいてきていた。

 

 その先はしばらくゴルジュ状の小滝が続く。
 そして、また雪渓。中央の割れ目をそのまま上まで抜けれたら良かったが、さすがにそれは無理だった。
 左右どちらかの雪渓に上がる際、自分は最初傾斜が緩い左側を選ぼうとしたら、弟子が右側を主張。
 上がってみたら自分が行こうとした左側の雪渓は先端が船の舳先状になっており、行き詰まりになっていた。
 雪渓の急な個所はまず8本爪アイゼンの自分が登り、その後、バイルをロワーダウンして交替で使い回した。

 
 
 雪渓がようやく切れた辺りが合流点。
 複数のガレ沢と支尾根が複雑に入り込んできて悪天の時などわかりにくいだろうが、今日は良い天気。
 B沢の巨大CSを目印にトポとGPSアプリで照合し、ドンピシャでC沢に入る。
 最後の水場で各自3Lほど水を汲み、この先、またしばらく小滝が続く。ガレは多少安定してきたが、延々と続く「岩の墓場」は体力的にキツい。
 
 太腿が悲鳴を上げる頃、ようやくスノーコルへ上がるトラバース道を確認。(ケルン2つあり)
 疲れているが時刻はまだ午後2時過ぎ。自分としては一日で稜線に抜けられると見込んでいたが、下部で時間がかかり、この先継続するには微妙な時刻だ。
 急ぐ計画でもないので、今日はここまで。スノーコルでビバークとする。

 
 
 ツェルトを張っていると、しばらく間が開いたと思っていた後続のお二人が到着。
 てっきり男二人だと思ったら、先ほどの滑り滝をリードしていた赤ジャケットは何と女性。あの「山登魂」と聞いて、なるほど強いなと納得する。
 
 二人は今回アイゼンを持たず、我々が行った左岸寄りの雪渓は右岸のA沢寄りを登ったとか。それぞれ興味深く情報交換する。
 申し訳ないがスノーコルは我々のツェルトだけでほぼ一杯なので、二人はさらに上のテン場へ向かっていった。
 
 夕方、ブロッケンが現れる。
 どちらかというと不吉な前兆だが、ここまで来たら後は四尾根を残すのみ。午後になると滝谷特有のガスが湧くが、幸い天気の崩れは無さそうだ。
 けっこう疲れたので、早めに就寝。今回は軽量化のため防寒着にシュラカバーのみだが、心配していた寒さはなく、思いのほか良く眠れた。
 
 
三日目 スノーコル5:30-四尾根Cカンテ8:00-ツルム9:30-終了点11:30-涸沢岳13:20-穂高岳山荘13:40-白出沢-新穂高18:20
 
 本日も晴れ。夜中トイレに起きると月明りで回りの岩壁が幻想的に浮かび上がり、我ながら凄い所にいるよなぁと実感した。
 
 簡単な朝食を摂り、出発。
 既に山登魂の二人はCカンテまで登っている。気合入ってるなぁ。
 本日はクライミングシューズに履き替え、まずは簡単なリッジをコンテで登っていく。
 途中、やはり快適なビバークサイトがあり、先の二人はここに泊まったのだろう。
 そのすぐ先が四尾根の取付きとなる。
 
 最初の2~3ピッチを交互に登る。せいぜいⅢ級程度で易しいが、浮石が多く、短めにピッチを切る。

 
 
 Aカンテは自分、Bカンテは弟子がリード。
 どちらも傾斜は寝ているが、Bカンテは部分的にホールド乏しく、ややトリッキー。
 だが、ふだん一癖も二癖もあるジム課題を登っているだけに、弟子はソツなくこなす。

  
 
 リッジを少し下って、Cカンテは自分がリード。
 先のA、Bカンテより傾斜は立ってくるが、ホールドはあり快適。

 
 続いて、落ちてきそうなピナクルへ向かって登るルンゼは、弟子がリード。浮石多く、やや気を遣う。

 
 
 ピナクルからツルムへ続く凹角フェースは自分がリード。トポではⅢ+となっているが、ふつうにⅣはあると思う。
 
 ツルムに到着。小休止した後、すぐ目に付く支点からコルへ向かって20mほど懸垂下降する。
 
 8P目、クラックフェースからチムニーは弟子がリード。
 下部は問題なく登れたが、上部の抜け口でやや苦戦。少々岩の間に入り込んでしまったようでザックが挟まり、もがいている。
 最後はA0で突破したが、本人は悔しそうだった。

 
 
 最後は核心、Dカンテ。
 私は以前、リードで登っているが、ここは最後のワンポイントだけボルダーちっく。
 左手カチ、右手はクラックの中に入れ、豪快に乗り越すのだが、はっきりしたフットホールドが無く、二箇所ほどスメアで凌ぐことになる。
 空身だと何てことないが、アルパインだとザックを背負っているのでこれが負荷となり、思い切ったムーブをするには多少の度胸が要る。
 自分も一回躊躇し、仕切り直し。その後、右手のクラックの中に掛かりの良いサイドプルのガバを発見。腹を決めてどうにかフリーで突破した。
 フォローの弟子はパワー系が苦手なため、ここはおとなしく最初からA0で突破。まぁイイでしょう。
 
 そこから簡単なリッジを少し登り、終了点。なぜかそこだけしっかりしたハンガーボルトが打ってあった。
 出合からの滝谷、ついに完登。やっと終わった。
 たしかに最後の四尾根は全体の1/4程度でおまけのようなもの。下部こそが核心と言える長いルートだった。
 
 
 
 背後に広がる雲の平から笠ヶ岳へ繋がる稜線を眺めながら、しばし小休止。
 そこから大キレットの縦走路はすぐで、我々も奥穂側に向かって進むが、ここも渋滞エリア。
 反対側から来た登山者の言によると、先ほどまでキレットの鎖場で立ち往生した人がいて二時間ほどの渋滞が生じていたとか。
 先月の剱の「カニのヨコバイ」もそうだが、最近はチャレンジ精神旺盛だが、背伸びして明らかに実力不足の人が多いと思う。
 我々もヘタレであり、スピードも速くないことを自認しているが、少なくともルートについては自分のハードルを見極めているつもりだ。

 
 
 何とか渋滞は回避でき、涸沢岳を経由して穂高岳山荘へ。ここも人だらけ!
 さらにその上、奥穂への道は登りも下りも大渋滞で、ちょっと異常な光景である。
 
 ゆっくり休んだ後、白出沢の下りにかかる。
 広いゴーロの涸沢を岩に印されたペンキ印を頼りにガンガン下る。
 途中、沢の渡渉が数回あり、後半は左岸の樹林帯の道を行く。
 先行する中高年登山者を何組か追い越したが、途中ちょっとわかりにくい箇所があり、これから暗くなるにつれ、あの人たちは大丈夫だろうかと少し気になった。

 
 林道に出て、あとは気力で足を運ぶだけ。沢靴で下り続けていたため、既に爪先はマメがつぶれ、ヘタしたら爪が死んでいるかも。
 新穂高に到着したのは既にヘッデンタイム。スノーシェイドを下って、いよいよ試練の鍋平Pへの登り返しかとウンザリしたところで、神が降りてきた!
 
 後ろから見知らぬワゴン車がスーッとやってきて、こちらから頼んだわけでもないのに鍋平まで乗せてくれると言う。何という神対応!
 昨年、我々も南ア・易老沢の帰りで単独のおじさんを拾ってあげたり、剱で滑落怪我人を世話したり、それなりの功徳を積んできたわけだが、やはり神様はどこかで見ていてくれているのだ。
 三重ナンバーのお二方、本当にありがとうございました。
 
 〆は「ひらゆの森」で。露天がいくつもある大浴場ながら500円とリーズナブルで☆☆☆☆。
 出合からの滝谷は、同じ無雪期アルパインでも他のグラビアルートに較べ、体力、技術はもとより判断力、突破力が求められるロング・ルート。
 日程は短いが、先のGWに登った剱の北方稜線(全山縦走)をギュッと圧縮したような同じ疲れを感じた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。