日程:2020年3月23日(月)~24日(火)一泊二日
行動:テント泊・単独
さて今回は栃木と群馬の国境、足尾山塊の皇海山(すかいさん)へ。言わずと知れた百名山の一峰である。
当初はこの時期、ベトナム旅行へ行くはずが世界的な新型コロナウィルスにより中止、代わりにいくつか他の計画も考えたが何もできないままズルズルと縮小し、たまたまこの日程で天気が良さそうな近場に落ち着いた次第。
百名山にはこれといって強い興味は無いが、皇海山は名前のカッコよさもあって何となく学生の頃からいつか行ってみたいと思っていた山だ。
近年は群馬県の林道側から手軽にアプローチできるルートもあるようだが、やはりここは昔からの栃木県側、庚申山-鋸山経由の修験道ルートを辿ってみたい。
(群馬県側の林道からのショートルートは前年秋の台風の影響でこの時点で通行不可。今後、復旧の見込みも無い?とか。)
一日目 天候:
行程:横浜-銀山平9:20-一の鳥居10:15-庚申山荘11:40-庚申山13:30-御岳山14:00-薬師岳15:25-鋸山16:50-鋸山下コル(テン場)17:30
月曜の朝、横浜発。
今回はアルパインでもないからまったく緊張もなく、朝から寝坊する。
登山口までのルートも適当にカーナビ任せにしていたら渋滞に掴まったりして、思いのほか時間がかかってしまう。
皇海山は関越道と東北道に挟まれた位置にあり、横浜からだとなかなか遠い。(それでも関越高崎IC-北関東道経由が一番効率的のようだ。)
そんなわけで登山口の銀山平にようやく到着。
ある程度予想していたが、雪が無い。
一応、まだ三月なのでそれなりの冬山装備を整えてきたが、雰囲気は小春日和の陽だまりハイクだ。
アイゼン、ピッケルなど不要と思いつつも一応ザックに括り付け、出発。
平日なので誰もいないかと思ったが、それでも林道ゲート前に二台ほど。
しかし、この後、登山者と会うことはなかった。
単調な林道をタラタラと歩き、一時間ほどで一の鳥居に到着。赤い小さな鳥居をくぐって、ここから山道に入る。
しばらくは小さな渓流沿いの遊歩道のような道が続く。
深い落葉の中をラッセルのようにして歩く所もあり、ここまで来てもまったく雪は無い。
たまには静かな山歩きもいいかもしれないが、いつもクライミングなどをしているとやはり単調なのは刺激が無くて、どこか物足りない。
ザックもけっこう重いし、次第に飽きてきて帰りたくなってきた。
それでも登りがやや急になってくると「夫婦蛙岩」など巨岩、奇岩が現れ、少しは道程に変化が出てくる。
猿田彦神社跡でようやく少し雪が現れ、そこからすぐ庚申山荘に到着。ずいぶん大きくて立派な小屋だ。
現在も営業はしているようだが、平日の今日はさすがに人の気配が無い。小休止後は中を覗くこともせず、さっさと庚申山の登りに取り掛かる。
ここから登りも本格的になり、氷柱の垂れさがった岩壁の間を縫って高度を上げていく。
途中から雪が出てきてアイゼン装着。
直前が三連休だったのでそれなりにトレースらしきものが残っていたが、途中で消えたりしていて人間のものなのか不明。
山荘から庚申山までは地図上で見るとすぐかと思ったが、けっこうキツい登りだった。
庚申山~鋸山までは「鋸山十一峰」と呼ばれ、小さなピークのアップダウンが連続する。
自分が持っている昭文社のエアリアマップは1989年版で今から31年も前のもの。今回行くルートは全て破線で示され、この十一峰の箇所には「危」の文字が記されている。
前半はそれほど大したことはなかったが、後半はやや悪い鎖場やトラロープが設置されたガレ場がいくつか続く。
たしかに一歩足を踏み外したら助からないポイントもあったが、今回は適度な積雪にアイゼンを効かせて登れたので、返って無雪期のガレた状態よりは安心できたかもしれない。
もちろん所々で固く凍った箇所があり慎重に歩いたが、ルート的には見晴らしが利いて道をはずす心配は無いので、冬の両神山赤岩尾根よりは楽に感じた。
庚申山、御岳山、駒掛山、渓雲岳、地蔵岳、薬師岳、白山、蔵王岳、熊野岳、剣ノ山、鋸山と続くが、ピークに小さな標識があって自分で認識できたのは半分くらいか。
ジャンクションとなる鋸山山頂へ到着。
登山口に二台ほど車があったので、もしかしたら先行者がいるかもと思ったが、やはり気のせいでここまでずっと一人きり。
夕方になり気温はグッと下がってきたが、良い天気で展望も利いた。
日光方面の山々を見ながら小休止。今日はここまでとし、明日向かう皇海山への急な下りを少し偵察した後、テン場を探す。
鋸山山頂付近は風が強いため、六林班峠方面へ少し下り、最初のコル辺りの平坦地にライズ1を張る。
餅を入れたカップポタージュとサバ缶の簡単な夕食を摂ると、疲れと寒さであとはサッサとシュラフの中に潜り込んだ。
二日目 天候:
行程:起床4:00-テン場5:30-鋸山-皇海山7:30~45-鋸山-六林班峠11:15-庚申山荘15:35-銀山平17:35
夜中、サーッという音で目が覚める。横殴りの風が雪をテントに吹き付ける音だ。
事前の天気予報では両日ともに晴れだったのに・・・。まぁ朝にはやむだろう。あまり深く考えず、再び眠りに入る。
4時起床。テントの入口を開けてみると、外はまだ暗く星が見えない。
餅入りキムチラーメンの朝食を摂り準備を進めるが、結局、太陽は出ず、やや強い風の中に雪が舞っている。
まったく初めてのエリアだし、視界もトレースも不明瞭。
特にルーファイが悪い自分は、ここは無理せず敗退かと一瞬思ったが、時間はあるし、行ける所まで行ってみようと判断する。
荷物をまとめテントはそのまま。ザックに行動食とテルモスだけ納めて皇海山へ向かう。
鋸山へ登り返し、皇海山への最初の下りはちょっと急で細く、右側に落ちたらまず助からないが、シャクナゲの枝を頼りにトラバース。
さらに続くFIXロープ箇所は昨夜からの雪でほとんど埋まってしまい、後ろ向きのダガーポジションで慎重に下る。
最低コルから皇海山への樹林帯の道は雪が積もってわかりにくいが、間隔を置いて小さな標識や赤布があって随分助けられた。
2~3回道を失いつつも群馬県側からの道との分岐点に到着。何とここからまた新しいトレース跡が繋がっていた。
群馬県側からのルートは現在閉鎖されているはずなのに・・・不思議だ。
そこから皇海山山頂まではすぐかと思ったが、まだまだ登りは続く。やはり百名山、ダテじゃない。
ルーファイに手間取り、結局、鋸山~皇海山まで登山地図のコースタイムを上回り、2時間近くかかってしまう。
皇海山到着。百名山コレクターではないが、やはり何とかここまで来れて嬉しい。
誰もおらず電波も届かない雪の山頂で一人小休止。さて、ここからまた帰るまで大変だと気を引き締める。
下りは自分のトレースが残っているうちはまだ安心できた。しかし、吹き曝しの箇所では早くも雪に埋もれてしまった。
風雪の中で見上げる鋸山の登り返しは何ともおどろおどろしい形で聳えていた。
FIXロープは雪で完全に埋まってしまい、緩い雪壁となった斜面をピッケルとアイゼンの前爪を効かせてシャカシャカと登り返す。
鋸山を越え、テン場に帰着。すぐに撤収し、六林班峠へ。
この先それほど危険はないが、細いリッジや雪庇があり、慎重に進む。
鋸山~六林班峠間のルーファイが今回の核心となる。
進路は概ね南だが、所々に支尾根があり、5~6回はルートミスをした。
木々の枝に付けられた標識や赤テープが頼りだが、100m進んで次のものが見つからなかったら、まずルートを外れている。
すぐに最後に確認した標識まで引き返し、コンパスを頼りに軌道修正。
これまで冬山の単独行は何度も実践し、それなりの修羅場も味わっているので平静な気持ちを保てるが、ここは自分を過信せず、慎重に行動しなければ。
いざとなったら、少し危険度があるかもしれないが、昨日登ってきた鋸山から庚申山へダイレクトへ下ればいい。
しかし、そう考えているうちにまた次の目印が見つかり、運良く六林班峠に到着する。
事前に見たネットの記録では、六林班峠~庚申山への道程も所々笹薮に被われ、ルートミスしやすいと書いてあった。
しかし一番心配だったこのパートは、意外にも笹薮が雪に埋もれてかえってルートがわかりやすくなっていた。
基本的には沢筋に下りないよう高巻きのトラバース道が延々と続く。
ただ、今回靴の中敷きを忘れたので、途中から右足の底に水泡となる大きな豆ができてしまい、激痛に耐えながらの遅い足取りになってしまった。
庚申山荘にたどり着き、ホッと一息。最後の気力で銀山平へ。
残業になるギリギリの時間で何とか下山。昨日は陽だまりハイク?と軽く見ていたが、たかが百名山、されど百名山。体力的にはなかなかハードな山行だった。