「友達同士なら、一緒に入るものだよ〜」
ヴァイオレットは押しに弱い。イザベラにそういわれて、一緒にお風呂に入る。しかしイザベラは、「実は誰かと一緒にお風呂入るの初めて」と小さな声で言う。エイミー時代の家には、たらいしかなかった。母親もしばらくは生きていたとしても、お風呂は贅沢品だったのだろう。
バートレット姉妹は、ヴァイオレットと同じことをしながら、その意味やシチュエーションは、異なっている。
自動車に雨水をかけられ、一張羅をずぶ濡れにしてしまったテイラーは、シャワールームで湯船につかりながら、「私、服買ってもらうの初めて」とヴァイオレットに嬉しそうに語る。孤児院の服はお下がりばかりだった。姉が作ってくれたクマのぬいぐるみと同じ、「私だけの大事大事」がまた一つ増えた。
同じ入浴シーンでも、姉の初めては「お風呂に入る」ことで、妹の初めては「服を買ってもらう」ことだというのも、二人の境遇の違いをよく示している。姉はありのままの裸の自分自身をヴァイオレットの前にさらけ出し、妹はヴァイオレットに文字や衣服などの「文化」を与えられる。
ヴァイオレットは、バートレット姉妹に、天文台で聞いた星々の物語をしている。私は、原作もアニメもよく知らないが、天文台のリオンは、少佐以外にも「あいしてる」があることをを教えてくれた人なのかもしれない。そして、ヴァイオレットも、バーレット姉妹を「あいしてる」。しかしシチュエーションが異なる。姉には添い寝して子守歌を聞かせるようだし、妹のときは屋根に登って、満天の星を仰ぎながら話している。妹の幸せと引き換えに、孤独な人生を選んだイザベラ(エイミー)には、まず傷を癒やすことが必要だった。しかし、テイラーには、姉の与えてくれた、限りない未来の可能性がある。
「テイラー様、二つではほどけてしまいますよ。三つを交差させて編むと、ほどけないのです」
ヴァイオレットに憧れて、三つ編みにしようとして失敗するテイラーに、ヴァイオレットは優しく微笑みながら語りかける。二人の絆が決してほとどけない「永遠」になったのは、もちろん、そこにもう一人、ヴァイオレットがいたからだ。
私は、この星々の物語のエピソードに、不屈の革命家、オーギュスト・ブランキの『天体による永遠』を思い重ねる。トーロー要塞に幽閉され、宇宙の無限について語った老革命家は、最後の闘いに敗れ、ついに勝利することなく、牢獄の中で一生を終えようとしていた。しかし、たとえこの地上から夢が消え去り、救いがなかったとしても、「我々の一人一人は、何十億という分身の形をとって無限に生きてきたし、生きているし、生き続けるであろう」と、天体による永遠に、最後まで希望を見出していた。ヴァイオレットの語る星々の物語も、テイラーの幸せと引き替えに、ヨーク家という牢獄の中で生きることを選んだエイミーにも、「永遠」を信じさせてくれただろう。
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