プロレスファンも必読 『ママはやしの実わり』 酒井美羽

　『ママはやしの実わり』　酒井美羽（ぶんか社）上・下
　
　「やしの実わり」とは、相手の頭を押さえ、その反発する力を利用して自分の膝をぶつけるプロレス技である。ジャイアント馬場の得意技だった。

　ヒロインは、エンジニアの夫を事故で失った２１歳のシングルマザー。訪ねてきた双子の兄は、若手花形レスラー「ゴウ伊吹」。奇妙な共同生活が始まる……という話。二人の結婚に至るまでのラブコメディ、嫁姑問題、育児などのホームドラマに、連載当時のプロレス団体の倒産や分裂劇などが重なる。

　ゴウの先輩で、ＩＷＢ怪奇軍団を主催する鶴見川五郎のモデルは、もちろん鶴見五郎。作者のご近所で、子供同士がクラスメートだったらしい。これがすごくいい味を出している。野獣のような外見に似合わず、料理が得意でケーキを焼くのも得意。奥さんも美人で子供たちもかわいい。

　１９９７年～９９年に白泉社シルキー連載、２００９年文庫化。しかし作者、力道山を父親と一緒にテレビ中継見ていたって……文庫版のあとがきでは、長女も女子大生で、不思議はないのだけれど。プロレス好きも読んで楽しめる一冊。



　鶴見川さん（でもケーキ作りも得意）。作者はオヤジを描かせても抜群にうまい。