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ウラウラベッカンコ! 『放送禁止映像大全』 天野ミチヒロ

2010年08月11日 | 読書
『放送禁止映像大全』 天野ミチヒロ (文春文庫)

  ウラ! ウラ! ウラウラ ウラウラウラ ベッカンコ……
  ウララ ウララ ジャングル黒べえ
   ウララ ウララ ジャジャンジャ ジャンジャンジャン

 夏休みシーズンになると、『ジャングル黒べえ』が恋しくなる。
 再放送でいつも楽しみにしていた。パオパオもかわいかった。
 暑いところに、こう暑苦しいニュースが続くと、おれ、もう日本人やめる。黒べえのピリミー族になる。もう「ウラ!ウラ!」と踊って暮らしたくなってくるのであった。
 
 この作品は1988年ころに「黒人差別をなくす会」による『ちびくろサンボ』への抗議活動の余波により封印(コミックスは全集版で出たようなので入手予定)。この会の活動には、「表現の自由」という立場からは異論がある。ただ黒人差別につながるステレオタイプのデフォルメを改めさせた功績は認めなければならないと思う。しかし絶版や回収に走った出版社やメディアの対応は大きな間違いだった。

 カルチャーギャップから生まれるドタバタ劇を通して、人種を超えた友情を教えてくれた心温まる作品だった。たとえ誤解や間違いを含むとしても、世界名作劇場で「アメリカ」「ヨーロッパ」と出会ったように、『黒べえ』で先住民文化に出会ったのだ。

 なお、黒べえの本名は、「クロンベンボコ・ベロチョンタ・ベンボコリンコン・ブラブラボロリン・ボロボロボロリン・バエボコロンタラ・タラレロレンベエ」。原作漫画では「クロンベンボコ・メッチャラクッチャラ・ホイサッサ」とのこと。これこそ生きるのに何の役に立たない知識だな。

 さて、放送禁止映像をセレクトして解説したのが本書。放送禁止映像作品にも、現在の地上波での放送は倫理上困難というものの他に、原版が発見されないもの、ある時期のみ試聴不可能とされたもの、セリフ・場面などが加工されたもの、もある。本書はその意味では「映像レッドデータブック」であり、「日本映像暗黒史」でもある。
 
 本書が紹介するのはテレビドラマ(現代劇・時代劇)、特撮、アニメ、映画から全107タイトル。しかし映画編だけを見ていても、社会派の文芸作品『橋のない川』、B級トンデモの『ノストラダムスの大予言』、子供向けの特撮作品『ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団』、が同じラインナップで論じられることは、たぶんないだろう。「放送禁止」というキーワードで仕分けると、また違った映像史が見えてくる。

 『ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団』(今は海外利用権をめぐるトラブルで放映できない)で、「劇場の子供たちは大喜びし、マニアは苦笑していた」と書いているのは、そうだったのだろうか。当時劇場で見ていたが、ゴモラを6兄弟とハヌマーン(「ハヌマーン」でブログ内検索をかけてもこの記事がヒットしなかったのは、「マヌハーン」と誤記していたからだった。12年めのトホホ)が集団リンチするシーンは、ブーイングは出ないまでも、「えーっ?」という反応だったように記憶する。「ゴモラになんてことを!」「違う! こんなのウルトラマンじゃない」と思ったものだ。あのハマヌーンのデザインや特撮の拙さはご愛敬だったが、がっかりした子供の方が多かったようだ。子供たちが大喜びしたとしたら、ウルトラ6兄弟が出てきた、ただそれだけの理由だと思われる。
 
 思わず話がそれた。そんな思い出も含めて、特撮やアニメではなつかしいタイトルが続く。『スペクトルマン』の超人の居場所は「公害Gメン」という非武装組織だったことや、『アイアンキング』では、石橋正次がアイアンベルトだけでロボットを倒してしまうので悲しかったことを思い出したりした。

 夏休みの再放送といえば、忘れてはならない『妖怪人間ベム』。障害者の幼なじみがいたが、それはそれ、これはこれだった。「差別する人間のために悪と戦い続ける」という設定は、悲しいけれどこの世の真実を教えてくれたように思う。日韓合作作品だったそうだ。日本風でもアメコミ風でもない独特のキャラや配色センスは、それが理由だったのか。

 『巨人の星』の名セリフ、「僕の父は日本一の日雇い人夫です」は現在はピー音で消去されているらしい。聞いた覚えがある。再放送で見ていたので、勘違いかもしれない。そういえば、若い頃、「カメラマン」も職業差別用語だから気をつけましょうとモデルの子に教わったことがある。以来「フォトグラファー」で統一。飛雄馬のように自分でいうのはいいけれど、他人にいわれたらいい気分しない言葉は誰にでもある。

 終章は河崎実監督と筆者の対談。『天才バカボン』に対する「バカをバカにするな」というクレームに、赤塚不二夫が「バカをバカにする人をバカにする作品なのです」と答えたエピソードを紹介している。赤塚先生はやはり偉大だった。

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1 コメント

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Unknown ()
2010-08-15 14:08:34
「黒べえ」も直接クレームがついたかどうかは不明のようです。
かなり恣意的なものがあるように思います。
1988年といえば、日米経済摩擦でジャパンバッシング、反捕鯨運動、パリでは団体観光客がブランドものを買いあさっていた。片や昭和天皇Xデー。「世界の中での日本」が意識されはじめた時代でしょうか。一国資本主義=一国社会主義の終焉。
地上げでドラえもんの空き地が町から消えていくのと、差別表現狩りはパラレルな現象だったように思います。
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