デジタル化が自由の危機に?国家を超える新たな権力の存在 山本龍彦・慶応大大学院教授に聞く
東京新聞 2021年5月3日
政府の肝いりで加速するデジタル化。恩恵の半面、米グーグルなどの巨大プラットフォーム企業(PF)が寡占し、知らず知らずに私たちの自由や権利も脅かされている。デジタル時代に、憲法の理念をどう生かせばよいのか。憲法学者の山本龍彦・慶応大大学院教授に解いてもらった。(小嶋麻友美)
◆人物像や政治信条、感情まで把握されつつある
SNS、ニュースや動画の配信、ショッピングなどインターネット上の場を提供し、利用者から集めたデータを広告主などに売るのがPFのビジネスモデル。より多くの関心を得るため、心の動きを読んで個々の人に合わせた情報を送る。
「検索や閲覧、クリックなどのデータから、人物像や政治信条、感情まで把握されつつある。憲法19条で『不可侵』と考えられてきた内心の領域が、詳細に解析される傾向にある」と山本氏は指摘する。
特定のボタンを目立たせるなど、消費者を不利な決定に誘導するウェブデザインも問題視されている。「人工知能(AI)で行動予測はさらに高度化する。自分で物事を決めているようで、PFに感情を巧みにコントロールされることが増える。プライバシー権だけでなく、13条の自己決定権も脅かされつつある」
憲法の基底にある「民主主義」の危機でもある。自分が反応しやすい情報に囲まれることで自己洗脳され、同じ意見を持つ人と強く結びついて「部族化」しがちだ。「他者の意見にさらされ、他者と体験を共有することが民主主義の前提条件。『部族化』は危ない状態だ」と懸念する。
13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
◆巨大プラットフォーム企業は国家を超える
データは力だ。「軍事力はなくても、大量のデータ保有するPFは国家を超える存在になりつつある。教皇が権勢をふるった中世のカトリック教会に近い」。PFという権力にどう対応するのか、世界中が頭を悩ませている。
国家権力をしばるのが憲法だが、民間企業にも憲法原理は間接適用される。「スマートシティを含め、これからの統治はPF抜きには語れない。一つの統治主体としてとらえ、法律の解釈や制定を通じて憲法の考えをPFに及ぼしていくことも必要だろう」と説く。
「トランプ前米大統領の暴走は、アカウント停止などのPFの権力行使で止まった。今後はPFの権力をどう抑制するかが課題だ。国家権力とPF権力との抑制・均衡がうまく働けば、自由や民主主義がより良く機能することもある」
◆掲げられない「自由」「民主主義」
デジタル庁創設に向けた一連の法案で、国のデジタル政策のかたちを定めるのが「デジタル社会形成基本法」。第1条の目的には「経済の発展」と「国民の幸福」が掲げられているが、「重要なのは、デジタルを使って自由や民主主義をどう実現するのかだ。これが書かれていないのは大問題だ」と指摘する。
「例えばマイナンバー制度は、世帯主中心の制度を打破し、個人中心の行政につながる。より個人を尊重していく社会がデジタル化の本来の目的のはず。『利便性』ばかりで、人権を積極的に実現するためのデジタル化という議論が不十分だった」
メディアにも「PFのウオッチドッグ(番犬)として、権力性をチェックする役割が求められる」と注文を付ける。ただメディア自身がページビュー(閲覧数)稼ぎに追われ、PFビジネスにのみ込まれている点を懸念。「ジャーナリズムをデジタル世界の競争原理から切り離すことも、憲法の問題として議論していくことが必要」と話す。
やまもと・たつひこ 1976年生まれ。専門は憲法、情報法。総務省「プラットフォームサービスに関する検討会」委員、Zホールディングス「デジタル時代における民主主義を考える有識者会議」座長などを務める。著書に「AIと憲法」など。
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