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7部リーグ相当のクラブでプロ契約も! 日本でセミプロクラブやセミプロ選手が増えた背景とは
2023/5/25(木) 7:03配信
1993年の開幕から今年で30周年を迎えたJリーグ。開幕当初は、
オリジナル10と呼ばれる10クラブでスタートした。その後、
1999年にJ2リーグ、そして2014年にはJ3リーグが設立された。
30周年記念となる2023シーズンはJ1からJ3まで、合わせて60クラブが参入。
その数は開幕当初と比較すると30年間で6倍となった。また、
今シーズンから奈良クラブがJ3に新規参入。現在41都道府県に
Jリーグクラブが存在する。まだJリーグクラブのない県は
福井、滋賀、三重、和歌山、島根、高知の6県となっている。
そして、これらの6県全てにJリーグ参入を目指すクラブが存在する。
なお、4部リーグに相当する日本フットボールリーグ(JFL)以下のカテゴリに属し、
Jリーグ参入を目指すクラブは全国で100以上にものぼるという。
そうした中、近年は7部相当のクラブとプロ契約を結ぶ選手や、
他に仕事をしながらもクラブから固定給や勝利給を貰う選手が増えている。
今回はそうしたセミプロクラブや選手が増加している背景を考察していく。
■2014年にJ3が設立し、セミプロ選手が増加
ここでは、サッカーをプレーすることによって固定給や勝利給を貰いながら、
金銭的な事情などで他に仕事やアルバイトをしている選手をセミプロと定義する。
現在、JFL以下のカテゴリに所属し、Jリーグを目指すクラブは100を超えるが、
その影響の1つに2014年のJ3リーグ設立が大きく影響している。同リーグは2014年に、
JリーグU-22選抜を除く11クラブでスタートし、2023年シーズンは
20クラブとなっている。これまで、J1、J2の選手はごく一部の例外を除き、
全選手がクラブとプロ契約を結んでいたが、J3はプロ契約の選手が3人以上所属し、
スタジアムの収容人数やJFLの年間順位などの要件を満たせば参入可能となっている。
そのため、J3にはJリーガーでありながら勝利給のみ支給される選手や
アマチュア契約の選手も多く、全選手がプロというわけではない。実際、
J3のY.S.C.C横浜ではプロ契約の選手はクラブ内でも限られており、
スクールコーチやスポンサー企業などで仕事をしているケースや、
アルバイトをしているセミプロ選手も多い。
■Jリーグを目指すクラブも増加!いわきFCという先駆けクラブの影響も
J3リーグの設立で、Jリーグ参入へのハードルは格段に下がった。その影響で、
2014年以降Jリーグを目指すクラブが増加している。2022シーズンにJ3に参入し、
初年度でJ2昇格を決め、今季はJ2で戦ういわきFCもそのうちの1つだ。
同クラブは元々、2012年に設立された街の社会人サッカークラブだったが、
2015年12月にアメリカのスポーツブランド「アンダーアーマー」の
日本総代理店の株式会社ドームが運営権を取得。
「日本のフィジカルスタンダードを変える」、「いわきを東北一の都市にする」
などを理念に掲げ、一般社団法人いわきスポーツクラブから運営権を譲渡される形で
株式会社いわきスポーツクラブを設立。いわき市からのJリーグ参入を目標に掲げた。
そして、クラブの代表取締役社長には、湘南ベルマーレの社長を務めていた
大倉智が就任した。いわきは2015年に福島県社会人サッカーリーグ3部東で
優勝していたため、翌年から福島県2部リーグ(8部リーグに相当)に昇格。
Jリーグ参入への戦いはここからスタートした。そこから2019年まで毎年優勝し続け、
JFLまでストレートで昇格を果たしている。なお、2017年には
福島県1部リーグながら天皇杯に出場し、2回戦でJ1のコンサドーレ札幌に
延長戦の末勝利。日本サッカー界に衝撃をもたらした。
いわきはJFL昇格初年度の2020年こそ、7位でJ3参入を逃したが、
翌、2021年にJFLで優勝し、J3参入を果たした。なお、同クラブは、
設立後の数年間は午前中に練習を行い、午後は株式会社ドームの物流の仕事をする、
いわゆる社員契約という選手が中心だったというが、2019年頃からプロ契約の選手も出始め、
JFL参入初年度の2020年には全選手とプロ契約を結んだという。Jリーグ昇格まで
7年というスピード昇格を成し遂げたいわきFCの存在は、Jリーグを目指す
セミプロクラブに大きな影響を与えているのではないだろうか。
■ 都道府県リーグで給料が発生するクラブも!魅力的なクラブの設立もセミプロ選手増加の要因に
近年、セミプロクラブやセミプロ選手が増加しているが、中には
都道府県リーグ(7部、8部相当)でプロ契約を結ぶ選手や勝利給などを
支給されているセミプロ契約の選手を抱えるクラブもあるようだ。
現在、東京都社会人サッカーリーグ1部に所属するSHIBUYA CITY FCは、
2019年に2018シーズン限りでJ2ヴァンフォーレ甲府を退団した
元日本代表候補の阿部翔平を獲得。当時、
東京都2部リーグ(8部相当)ながら、阿部とプロ契約を締結した。
同クラブは「渋谷から世界で最もワクワクするクラブをつくる」を理念に、
東京都渋谷区をホームタウンとして活動している。「都市型サッカーフェス」として、
ストリートサッカーなど、様々なコンテンツを楽しめる「FOOTBALL JAM」や、
選手達とファン・サポーターが交流することができる「SHIBUYA FOOTBALL FES」
といった様々なイベントを開催している。また、同クラブは2023シーズンから、
ヘッドウェア、アパレルのグローバルブランドである「NEW ERA」と
オフィシャルサプライヤー契約を結ぶなど、注目を集めている。なお、
同クラブにはプロ契約の阿部翔平以外にも、選手としての
報酬を受け取ってプレーしている選手もいるという。
その他にも、東京都1部リーグながら月額10万の報酬を
選手に支払っているクラブがある。元日本代表の本田圭佑が2020年1月に設立し、
オーナーを務めるEDO ALL UNITEDだ。同クラブは2023シーズンからプロ化を宣言。
昨年11月にリリースされた、2023シーズンの選手募集要項には、
月額10万円の報酬を支払うと記載されている。同クラブはサロンメンバーとして
会費を支払うことで、クラブ経営に関わることができる、ファン参加型のクラブ
というのが特徴だ。近年、Jリーグ参入を目指すクラブにこれらのような魅力を持つ
クラブが増えており、サッカー界からの注目を集めている。そして、
多くの企業からのスポンサードを受けることに成功していることも、
セミプロ選手が増える要因の一つになっているだろう。
■サッカーのみで生活をする選手も!JFL以下のクラブでプレーする選手達の待遇は…
4部リーグ相当のJFL以下のクラブでプロ契約やセミプロ契約を
結ぶ選手が近年増加しているが、彼らの待遇はどのくらいなのだろうか。
関東1部リーグ(5部相当)のVONDS市原に2018年から2021年に在籍し、
現在は日本代表板倉洸の専属シェフを務める池田晃太氏が自身の
YouTubeチャンネルで待遇について明かしている。池田氏によると、
VONDS市原在籍時の給料はサラリーマンの平均年収よりも
やや少ないくらいだったという。同氏は一人暮らしだったため、
サッカーだけの給料でなんとか生活もできたというが、カフェでの
アルバイトも行っていたようだ。また、同クラブと同じ関東1部に
所属する南葛SCは、ブラジル人選手にはサッカーのみで生活できる給料が
支払われているが、日本人選手はプロ契約選手でも、他に仕事をしている選手が
ほとんどのようだ。また、同クラブは、企業や個人が選手個人をスポンサードする
「個人スポンサー」制度を導入。選手自らがSNSなどでスポンサーを募り、
協賛金額は諸経費を除き、全額選手の収入となるという。
なお、JFLや地域リーグに精通するサッカー関係者に話を聞くと、
地域リーグなどのクラブと契約する選手が受け取る勝利給は、
クラブの規模や経営状況によっても大きく左右されるが、1試合あたり
1万円から10万円が相場となっているという。なお、他の仕事を
しながらサッカーをプレーすることを前提とする、いわゆる
デュアルキャリアを推奨するクラブの場合は勝利給の金額も下がるようだ。
また、今季から埼玉県1部リーグに所属し、埼玉県川越市からJリーグ参入を
目指すCOEDO KAWAGOE F.C は2022シーズン、川越市1部リーグながら
選手に月額5000円ほど支払っており、今季はそれよりも増額しているという。
逆にJFLに所属し、新宿区からJリーグを目指すクリアソン新宿の選手は
全員がサッカー以外の仕事も行っているようだ。このあたりは、
クラブの理念などが関係してきているようだ。近年では、サッカー給のみでの生計を
立てるのは難しいものの、都道府県リーグでもプロ契約や
セミプロ契約を結ぶ選手も増えており、Jリーグを目指すクラブも増加している。
■今後もJリーグ参入を目指すクラブは増えるのか
2023年現在でJリーグ参入を目指すクラブは全国に100以上存在するが、
今後も増えていくのだろうか。2022シーズンまではJリーグ参入の条件として、
Jリーグ100年構想クラブであることが定められていた。しかし、
2023シーズンからこの条件が撤廃となった。Jリーグ100年構想クラブは
年会費が120万円かかり、その他にもJリーグを目指す体制が整っているかなど、
様々な審査基準が設けられていた。しかし、このルールが
撤廃となったことで、Jリーグ参入へのハードルが下がることとなった。
さらに、Jリーグ参入には2022シーズンまで「JFLのホームゲームの
平均入場者数が2,000人を超えており、かつ、3,000人に到達することを
目指して努力していると認められること」が条件とされていた。しかし、
このルールも2023シーズンから「平均入場者数2,000人以上に到達することを
目指して努力していると認められること」に改定された。Jリーグの試合が
開催可能なホームスタジアムを用意することなどの条件は残っているものの、
以前に比べてJリーグ参入へのハードルは低くなったといえるだろう。
これらを踏まえると、今後もJリーグ参入を目指すクラブは増えると
予想はできるが、障壁となる問題も出てきている。Jリーグは2024シーズン以降、
競技力の維持を目的として、クラブ数をJ1からJ3各クラブ20クラブずつの
合計60クラブとすることを決定している。そのため、J3とJFL間で入れ替えが
行われることとなるため、一度J3に昇格しても、成績次第ではJFLに
降格する可能性がある。これらのルールが設けられたことで、
今後もJリーグを目指すクラブが増加し続けるとは言い切れない状況ではないだろうか。
■天皇杯にはセミプロクラブも多数出場!
今月20日に開幕した天皇杯は、Jリーグ所属のプロクラブとJFLや地域リーグ、
大学リーグに所属する1種年代のクラブが日本一を争うサッカートーナメント
として知られている。今大会にも多くのセミプロクラブが出場しており、
JFL所属のヴィアティン三重、レイラック滋賀、ブリオベッカ浦安、
関東1部リーグ所属の栃木シティなどが1回戦に勝利し、2回戦進出を決めている。
J1・J2のクラブが出場する2回戦は6月7日、14日、21日に行われる。なお、
栃木シティには今季から加入した田中パウロ淳一が在籍。2回戦では
川崎フロンターレとの対戦が決定しており、同選手にとっては古巣対決となる。
天皇杯では、毎年のようにJFLや地域リーグ、大学サッカー部のチームがJ
リーグクラブに勝利するなど、多くの番狂わせが起きている。今年は
どんな番狂わせが起きるのだろうか。天皇杯でのセミプロクラブの戦いにも注目したい。
辻本拳也