
エジプトの憲法停止会見
茉莉花
中国は盧溝橋事件(七七事変)記念日です。日本軍が満州に飽きたらず、支那事変として中国に全面戦争を仕掛ける契機となった北京西南の盧溝橋における関東軍と中国軍の軍事衝突の事件から76周年にあたります。J
日本では7月7日は、子供の願い事を託す平和な七夕祭りです。P
中国でも愛される花のジャスミン・茉莉花(モーリーホワ)はチュニジアを代表する花であることから、チュニジアから、一昨年アフリカ北東部アラブ諸国に広まった民主化運動は、ジャスミン革命ともアラブの春とも呼ばれました。
ジャスミン革命でエジプトのムバラク独裁政権も倒れ、2011年3月に、エジプトは憲法改正に関する国民投票を行ない、初めての自由投票で当選した民間出身のモルシ大統領は、2012年8月29日には中国も訪問して、当時副主席の習近平主席と友好会談を行ないました。
しかし、モルシ政権下でもエジプト経済は回復せず、物価は急騰し、治安も乱れ、エジプト国民の暮らしは逼迫しました。政権への期待はいつしか批判にも変わり、民主化1年目という節目で、首都カイロで最大20万人、全土で最大300万人が参加したと言われる抗議デモが起こり、反大統領派と大統領支持派の暴動対立も深まるなか、7月4日にエジプト軍は、モルシ大統領の解任と憲法の停止を急遽発表しました。今も混乱は続いています。
今回のエジプト動乱を報じた、中国環球時報の社説では、「エジプト憲法はマヒ状態となり、軍が統治する“ショック療法”に戻る事態」とも述べ民主主義導入も批判し、中国は「世界の経験から最適なものを選択し、独自の道を切り開く」としてあたかも民主主義が原因で暴動が起こったと理解しているようです。プロレタリアートの独裁の妄想を中国は今後も維持し続けるようにも思います。P
一方、同じイスラム国のトルコのデモは、かなり次元が違うようです。1960年と1980年に軍がクーデターを起こした軍事政権色の強かったトルコでしたが、エルドアン首相は、戦後最悪といわれた金融危機からトルコ経済を立て直し、過去10年でGDPを約3倍に押し上げ英雄視もされています。
貧困層への支援拡大で労働者層やイスラム保守層にも支持を広げた、エルドアン首相は、3期連続で政権を維持し、2010年9月には、憲法改定案の国民投票が実施され、一層の民主化も実現させました。これを民主主義の勝利だとトルコは宣言し、欧米諸国は、トルコの民主化をEU加盟に向けての一歩だとも讃えました。
しかし、「ストライキも平和的デモも」違法で無くなったトルコ社会は労組を中心にストライキもデモも大衆に普及して盛んになったことと、酒の販売規制や人前でのキスの禁止、子供を3人以上作ることの推奨など、エルドアン首相の伝統的「イスラム的保守政策」への反感や10年も続く単独政権への飽きや国民不満が背景にはあるようです。また、エルドアン政権は評価される政策の反面で「首相は市民の声を聞かない独裁者」との批判も高まっています。変わらない保守政策は「報道抑制」を露骨に行い、政権や首相を批判した記者が投獄されてきたともいわれています。そのため、メディアは批判を沈黙し自己規制に走るようになったと言われています。
中国では、広東省の新聞「南方周末」の今年の新年特集記事が地元当局の指示で、記事の内容を書き換えられたとして、新聞の記者らが反発する声明を様々に発表するなど波紋が広がったとのニュースがあり、昨年ロシアでは「外国から支援を受けて政治的な活動をしたNPOは事実上「スパイ」登録し」「政治家のひぼう中傷は刑事罰を課す」などと、厳しい言論統制法制をプーチン大統領は実施しましたが、それほどではないにしても、「市民の声を聞かない独裁者」「報道抑制」とのトルコでの政治批判は保守回帰を果した日本にも同様に当てはまりそうです。日本では、アベノミクスの見返りに自民党がゼネコンに4・7億円の政治献金を早速要求していることが最近共産党に暴露されていましたが、もう最悪の利権政治の復活を果しつつある安倍政権は、露骨な情報統制さえ引き始めたようです。
自民党は7月4日TBSの報道内容について「公正さを欠く」などとして当面の間、党役員会出席メンバーに対するTBSの取材や出演要請を拒否することを急遽発表しました。6月26日放送の「NEWS23」で通常国会会期末の法案処理を報じた内容で、「重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解する内容があった。マイナスイメージを巧妙に浮き立たせたとしか受け止められず、看過できない」とまで吹聴しTBSを突然非難しました。
しかし、 6月26日放送の「NEWS23」を見ていた限りでは、自然エネルギー財団の大林ミカ氏の『非常に、あの、許せないですね。やっぱり、政争の道具にされていますね。(一部省略)問責決議案の前に、法案の採決をしようという動きもあったわけですから、結局与党がそうしなかったというのは、もともともしかしたらシステム改革法案を通す気がなかったのかも。非常に残念ですね』という発言を単に紹介しただけのものでした。「その他生活保護法案や生活困窮者支援法案などの重要法案も廃案となった」というニュースの説明は、別のナレーターの別フレーズであり、個々の報道内容を構成するパーツはすべて事実そのものでした。しかも、全体を通してニュース自体を見れば、全く公正公平を欠いている報道とは思えないものでした。これを非難した自民党の主張は、まるで子供の屁理屈のようでもあり滑稽にさえ思えました。
そもそも、参院の議運委員長は自民党であり、本気で電力改革をやる気があるのなら、問責決議を法案審議のあとにまわすことは、さほど難しいことではないとは広く報道されており、「参議院で、野党が安倍首相の問責決議をし、そのために、電気事業法改正案や生活保護法改正案などの重要法案は廃案になった」とは、安倍内閣の自民党も公明党もすでに主張している内容であり、他のメディアもほぼ共通した報道をしていました。TBSだけがことさら非難されるものでもなかったはずです。
しかも、このTBS報道内容に対して、具体的な内容の確認も事前におこなってもおらず、いきなりTBSの取材や出演要請を拒否すると乱暴に、選挙を前にして、自民党は文書抗議まで実施して、広く公式に日本全国に発表をしました。言ってみれば、これは、表現の自由、マスコミの報道の自由、日本国民の知る権利へのあからさまな挑戦行為でもあり、参議院選に向けてマスコミ統制を引いたに等しいものでした。そもそも政権党はマスコミに批判をされる宿命的立場にあったはずです。本来、報道は権力をチェックし、国民に事実を伝える使命があります。しかし、この本来的機能さえ封じるに等しいものでした。
そうでなくても、日本のテレビ放送は政府の免許事業でもありますので、常に権力の影響を受けやすいのですが、それが、選挙報道中の政権与党の出演拒否となれば、完全な営業妨害の政治圧力であり、もう常軌を逸した行動とも、報道や表現の自由を奪う行為は民主国家ではないとも、一部で非難がされました。それは憲法違反の疑惑さえあります。(最初は、なぜ自民党がこんな傲慢な、異常な主張をこの時期に唐突に実施するのか、私にはその理由も分かりませんでした。)
しかし、おそらく、狙いは別にあったのでは、と言う人もいて妙に私は納得をしました。なぜなら、TBSはその翌日、さっそく西野智彦報道局長名で「指摘を受けたことを重く受け止める」との文書を仰々しく自民党に提出しました。事実上、文書で詫びを入れたことが公式報道もされ、早速、安倍首相はBSフジの番組で「事実上の謝罪をしてもらった」と語り、TBSへの脅迫的取材拒否方針を自民党は中断したのです。しかも、文書提出したのにTBSの報道部長は改めて「謝罪は行なっていない」とコメントまで出す茶番でした。
捏造報道疑惑が過去に何度も指摘されてきたTBSは、第1次安倍政権が発足した2006年には、旧日本軍731部隊に関する特集報道の冒頭で、当時の自民党の安倍官房長官の顔写真を約3秒間も意味もなく放映して、話題になりましたが、今年4月6日には「安倍政権100日 好調の裏に極秘手帳 首相独占インタビュー」として、他局とは桁ちがいの長時間の詳細報道を実施して安倍政権を大宣伝もしていますし、TBSの看板番組のひとつの日曜劇場では航空自衛隊が舞台となる連続ドラマ「空飛ぶ広報室」を先月まで放映しており、この間、安倍政権とは最も密接な報道姿勢を示しているテレビ局です。
4月21日放映された「週刊BS-TBS編集部」での石破自民党幹事長のインタビューでは、「国防軍に『審判所』をと今の平和憲法では禁じられている軍法会議(軍事法廷)」の設置や自衛隊の「出撃拒否」には「死刑」「無期懲役」「懲役300年」などと軍事オタク的で超過激な石破氏の主張さえ、そのまま垂れ流して宣伝しています。
そのTBSに脅迫的な取材拒否の抗議まで実施して、屈服文書を提出させて、広く話題を集めたのです。これは、見せしめの茶番であると同時に、これからの選挙報道に対して、全マスコミに対する、自民党からの、一種の威嚇行為、報道統制行為だと見れば、なるほどとも思えました。(日本では、何故かマスコミの選挙結果予想が外れることは、まずないのです。それは、マスコミの一部がマインドコントロールしている疑惑さえあるのです。そのためか安倍首相はこの間マスコミ首脳と会食をあいつで行って懐柔してきました。しかし、飴だけでなく鞭も必要ということなのでしょうか。)狙いは、ねじれの解消とも歌う両国会支配の道であり、憲法改正も視野にして安定を図ると言う名の独裁統制政治の始まりのようです。しかし、そうだとすれば、日本のマスコミもなめられたものです。
独裁的統制への道は、最近の日本では、報道だけでなく、経済活動に関してもありました。
5月に安倍政権が提起した「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」とは、明らかに経済統制であり、広告規制の問題でもあり、経済的自由権の制限の問題でもありました。これも憲法違反の疑惑があります。同種のことができない中小企業の保護にもなるという詭弁の一方で、中小企業の消費税の軽減には全く対策も取られてはいません。かつての民主党政権以上に消費税による増税策の徹底と、その実効性のためには、中国にもまけない経済統制まがいの規制さえ、アベノミクスは実施していくようです。
経済統制の一方で、生活保護の改悪に安倍首相はこだわっています。(申請書類の提出義務化や扶養義務の強化)通常国会で廃案に追い込まれた生活保護法改悪案など2法案ですが、先月、受給者から集められ要望書にまとめられた安倍首相への手紙の報道では「不正受給者はバッシングされて当然ですが、必死で生きている弱者をこれ以上いじめないで下さい」「制度が改悪される、イコール『死』を意味します。自立できるよう、必死でもがいている人もいるのです」など切実な声が寄せられていました。しかし、安倍首相は聞く耳も持たず揺るぎも無く参院選の完全勝利の後の国会に再提出して成立させるようです。
一方、従来から経済統制大国の中国ですが、中国人民銀行が短期金融市場で一時資金供給を絞り込んだことから金利急上昇の混乱がありました。いわゆるシャドーバンキング(影子銀行)の広範な取り締まり強化や、人民銀行が行き過ぎた債務の膨張を阻止する決意を習近平体制に見せたためともいわれており、今後も市場の借り入れ金利を押し上げるとともに、中期的には既に減速しつつある中国経済に回る元のマネーサプライを減らすだろうとも報道されています。
先月上海の株式市場が年初来の最安値となりましたが、市場の下落は、「理財産品」と呼ばれる高利回りの財テク商品の償還が今月末にも行き詰まり、「資金ショートで中小の銀行では連鎖破綻も起きるのではないかとの警戒感が広がった」ことが背景にあると言われました。(中国では、金融商品(資産運用商品)を理財商品と言い、高利回りで民衆に人気があります。1年物の定期預金金利が約3%に対して理財商品は高いもので利回りが10%を超えています。インフレ率が預金利率を上回っている今日の中国では余裕資金を「高利運用しないと必然的に大赤字」になるので、インフレに苦しむ庶民の財テクに理財商品の活用は仕方がないとも言えます。しかし、その理財商品で集められた資金は、「地方融資平代」などを通じて、主に地方政府の不動産投資に流れていると見られています。その投資先の不動産が値崩れすると理財商品の高利回りも確保できないため、かつての日本のバブル崩壊や、米国のサブプライムショックのように、損失が拡散し始めると、統制がきかず、中国経済全体に深刻な悪影響が及ぶとも考えられています。中国当局の発表によれば理財商品の残高は日本円で130兆円規模ですが、実体のつかめない影子銀行の残高がほとんどですから、実際にはもっと巨額とも見られており、イギリスの格付け会社は200兆円規模とも試算しています。200兆円とは2012年のロシアGDP並の数字です。中国大手4行の預金残高44兆元弱(700兆円)と比較しても巨額な規模です。中国では政治の独裁は維持できても、経済統制面での独裁は既に破綻しつつあるようにも見えます。
その理財商品の償還が7月に集中していることから「7月危機」とも囁かれています。しかも「理財商品」は銀行の負債である預金ではないため、政府の統制もきかず問題も大きいのです。昨年11月には中堅の華夏銀行が11%の高利で集めた「理財商品」の元利金を支払えず、大騒ぎになりました。銀行の窓口で売られた商品ですが、銀行も銀行員も支払いには「責任が無い」と突っぱねました。過去にも1998年には、広東国際信託投資公司が高利で集めた資金が焦げ付いて破綻し、民衆だけでなく邦銀など海外の金融機関が損失を被った事件もありました。)
--華夏銀行前の抗議民衆
昨年11月報道では「経済成長は本物でなければならず、水増しはなくすべきだ」と習近平氏は発言していました。(中国は以前からGDPの統計水増しが指摘されてきましたが)健全な経済発展を習近平体制は目指すようです。この限りでは、新政権の認識は誤っておらず、一応改善を目指して努力している様子でもあります。