稚拙な文章に見え隠れする作者の意図。
今年も上半期の芥川賞の発表が、間近に迫ってきた。
私は以前、芥川賞の小説を追って読んでいた。
その世界は玉石混合、感銘受ける作品もあれば、何故これが芥川賞?と首を傾げたくなるものまで様々あった。
日本の文学界の最も名誉であろう芥川賞は、その存在意義を問われる作品も多く排出してきたと、私個人は思っている。
今回紹介する作品は、山下澄人著「しんせかい」である。
ストーリーを紹介しておこう。
高校を卒業した「スミト」は、北海道で俳優になるべく、住み込みで研修を行なう通称【谷】と呼ばれる施設へ入所する。
そこは「第一期生」と呼ばれるスミトより一年早く入所した人々が存在し、主に自分たちの手で建物を建て、近隣の農家を手伝い、自らも農業をして、日々の糧を得る自給自足の世界だ。
スミトはそこの「第二期生」となり、同時に入所した人々と生活を共にする。
この【谷】と呼ばれる場所の総括者は【先生】と呼ばれ、彼らの農作業等の空いた時間に【谷】に来ては「脚本」または「俳優」の養成をするべく、様々な指導をする。
俳優を目指して入所したスミトだったが、授業よりも格段に多い農作業等に従事することに徐々に疑問を持つようになり..........。
ストーリーを読まれてピンときた方もいらっしゃるだろう。
これは、そう、昔、脚本家の倉本聡が自身で開港した北海道の「富良野塾」のことである。【谷】とは富良野塾を指しているとおぼしい。
作者の山下澄人は実際に富良野塾の二期生として入塾した経験をもっている。その時のことを書いたのがこの小説「しんせかい」なのだ。
この小説には、やたらに登場人物が多い、十人以上いる。いやもっといたかもしれない。
私は登場人物がやたら現れるのを察知した瞬間、登場人物を記憶しないことにした、いちいち記憶しては本が先に進まない。作者は読者が登場人物を覚えてくれるとは最初から思っていずに本を書き進めたのであろう。
また文章が、語句がいたって簡単。失礼な表現をすれば「稚拙」である。
しかし侮ってはいけない。
作者は構成した文章を、一旦全てとり壊し、再度必要なピースだけを集めて構築した意図が見える。
文章のニュアンスは、普通では書かない言葉の連続になっている。
なんとも読みづらいが、そのニュアンス、テンポには独創性があり、作者の非凡さを垣間見える。
トータルページ約140.。中編小説の部類に入ると思うが、上記のように独自性が強く、読むのには多少苦労した。
しかし、今までの小説とは明らかに別ステージにある小説として、評価はしても良いのではないだろうか。
興味を持った方には、お読みになることをお勧めする。
2016年下半期、第156回芥川賞受賞、作者:山下澄人。
今年も上半期の芥川賞の発表が、間近に迫ってきた。
私は以前、芥川賞の小説を追って読んでいた。
その世界は玉石混合、感銘受ける作品もあれば、何故これが芥川賞?と首を傾げたくなるものまで様々あった。
日本の文学界の最も名誉であろう芥川賞は、その存在意義を問われる作品も多く排出してきたと、私個人は思っている。
今回紹介する作品は、山下澄人著「しんせかい」である。
ストーリーを紹介しておこう。
高校を卒業した「スミト」は、北海道で俳優になるべく、住み込みで研修を行なう通称【谷】と呼ばれる施設へ入所する。
そこは「第一期生」と呼ばれるスミトより一年早く入所した人々が存在し、主に自分たちの手で建物を建て、近隣の農家を手伝い、自らも農業をして、日々の糧を得る自給自足の世界だ。
スミトはそこの「第二期生」となり、同時に入所した人々と生活を共にする。
この【谷】と呼ばれる場所の総括者は【先生】と呼ばれ、彼らの農作業等の空いた時間に【谷】に来ては「脚本」または「俳優」の養成をするべく、様々な指導をする。
俳優を目指して入所したスミトだったが、授業よりも格段に多い農作業等に従事することに徐々に疑問を持つようになり..........。
ストーリーを読まれてピンときた方もいらっしゃるだろう。
これは、そう、昔、脚本家の倉本聡が自身で開港した北海道の「富良野塾」のことである。【谷】とは富良野塾を指しているとおぼしい。
作者の山下澄人は実際に富良野塾の二期生として入塾した経験をもっている。その時のことを書いたのがこの小説「しんせかい」なのだ。
この小説には、やたらに登場人物が多い、十人以上いる。いやもっといたかもしれない。
私は登場人物がやたら現れるのを察知した瞬間、登場人物を記憶しないことにした、いちいち記憶しては本が先に進まない。作者は読者が登場人物を覚えてくれるとは最初から思っていずに本を書き進めたのであろう。
また文章が、語句がいたって簡単。失礼な表現をすれば「稚拙」である。
しかし侮ってはいけない。
作者は構成した文章を、一旦全てとり壊し、再度必要なピースだけを集めて構築した意図が見える。
文章のニュアンスは、普通では書かない言葉の連続になっている。
なんとも読みづらいが、そのニュアンス、テンポには独創性があり、作者の非凡さを垣間見える。
トータルページ約140.。中編小説の部類に入ると思うが、上記のように独自性が強く、読むのには多少苦労した。
しかし、今までの小説とは明らかに別ステージにある小説として、評価はしても良いのではないだろうか。
興味を持った方には、お読みになることをお勧めする。
2016年下半期、第156回芥川賞受賞、作者:山下澄人。