ダーリン三浦の愛の花園

音楽や映画など徒然なるままに書いてゆきます。

明日のためにその493-ザ・フォーリナー

2020年11月04日 | ヨーロッパ映画
なかなか良くできた作品。

ジャッキーチェン、アクション映画から引退してしばらくがたつ。
彼は映画界から引退したわけではないので、その後もいくつかの映画に主演している。
今回紹介する映画は、ほぼアクションを封印した彼の主演作「ザ・フォーリナー」。
娘を殺された父親役を好演している映画だ。
ストーリーを紹介しておこう。

ミンはロンドンで中華料理店を経営する中国人。
彼は或る日、娘を送迎中、爆弾テロに巻き込まれ、娘は命を落としてしまう。
怒りに燃える彼は、犯行声明を出した北アイルランドのテロリスト集団に復讐を誓う。
彼は、元テロリスト集団にいて、今や北アイルランドの副首相となっている男から、犯人を聞き出そうと動き始めるのだが......

まずは、ジャッキーチェンの憂いを帯びた演技に好感がもてる。
娘を失った悲しみを背負った、演技は成功していると思う。
そして、映画の作りが非常にしっかりしているのには驚いた。
何か事が起きる前の、シーンの作り方のうまさ。画面空間の作り方のうまさ。どれも一級品である。
アクション・サスペンスととらえられる映画の内容だが、それだけにとどまらな確かな作りを持った作品である。
ストーリー的には、平凡なものとなっているが、映画の作りの良さで、それをカバーしている。
また、約2時間近い作品なのに、その長さを感じさせないところがある。
この監督の作品は、他の作品も観てみたいと思った。

2017年、イギリス、中国、アメリカ合作、カラー、110分、監督:マーティン・キャンベル

明日のためにその486-巴里の屋根の下

2020年10月18日 | ヨーロッパ映画
抒情あふれる作品

最近なかなか良い映画が無い。
どうも自分の臭覚を研ぎ澄ましても、ピンとくるものが無いのだ。
そうなると、どうしても食指はクラッシク映画に傾く。
今回紹介する映画もクラッシク映画だ。
監督は、ルネ・クレーヌ言わずと知れたフランスの名匠である。品は「巴里の屋根の下」だ。
大まかにストーリーを紹介しておこう。

パリでテンパンアレーとして働く、アルベールは、ある日ポーラと言う女性に一目惚れする。
最初は彼を嫌がっていた彼女だが、次第に心を寄せるようになる。
そして二人は結婚の約束をする。
しかし意外な事から、その約束は叶わぬものとなり.....

クレーヌは美しい画像で、魅了し、そして音楽と台詞と無音でストーリを進めていく。
物語自体に特にケレンがあるわけではない。
ある意味ありきたりの内容である。しかし、彼が撮ると実に滑らかで、抒情的な映画と昇華する。
これだから、クラッシク映画はやめられない。毎回新しい素晴らしさを堪能できる。
この映画は悲恋映画だが、どこか清々しい。映画を構成する音楽が決めてになっているのだろうか。
以前紹介した巴里祭と言い、今回の作品と言い、暫くクレーヌを追ってみようと思う。

複雑な現代社会、彼の作品につかって癒しを求めるのも良い方法ではないだろうか。
巴里祭、巴里の屋根の下、是非観ていただいて、心を落ち着けるのも良いのではないだろうか。

1930年、フランス製作、モノクロ、91分、監督:ルネ・クレーヌ。


明日のためにその482-巴里祭

2020年08月17日 | ヨーロッパ映画
純粋なる傑作。

最近の映画は、特殊撮影あり、ギミックありと、様々な要素が盛り込められている。
映画100年を超える歴史のなかでは、最初の映画は、汽車がただ駅に到着するところを写したり、体の表現だけで観客を笑わせるスラップスティックだったりと、実に単純な要素だけで出来ていた。
人間の感情に訴えるものは、案外ストレートでシンプルな要素なのかもしれない。
今回紹介する映画は「巴里祭」。
フランス映画初期の傑作である。
ストーリーを紹介しておこう。

ジャンはタクシー運転手、彼の住むアパートのむかえのアパートに住むアンナ。
二人は喧嘩しながらも、お互い心通じ愛し合っている。
革命記念日の前日、仕事をなくしたアンナをジャンは踊りに誘い、降ってきたにわか雨の雨宿りをしているとき、二人は口づけを交わし、お互いの心を確かめた。
しかしその後、ジャンの別れた昔の女が、彼のアパートに転がり込む。
それをアンナは目撃し、彼に別れを告げようとするのだが........

とにかく、良い意味で単純であり、純粋であり、初々しい魅力あふれる作品である。
余分なものを一切排して作られた一本である。
そこが良い。やたらストーリーを複雑化したり、ケレン溢れる演出をしたりしていないところが好感が持てるところだ。

ジャンはあることで、タクシーの運転手を辞め、悪い連中と付き合うことになる、
そしてアンナが新しく勤めたバーに、強盗として入る手引きをする。
しかし寸でのところで、強盗は失敗、ジャンとアンナの再会も最悪の状況で迎えることとなる。
その後暫くして、アンナは資金を元手に、移動式の花売りを始める。
そしてジャンもタクシーの運転手に戻る。
ある日ひょんなことから、ジャンとアンナは再会する。
しかしその再会のきっかけも、最悪なものだった。
そんな折、急に降っていた雨が強くなる。二人も思わず雨宿りをする。
またも偶然に同じところへ雨宿りした二人。そして今までのことが無かったかのように、二人は唇を重ねる。
二人の愛の、第二章の始まりである。

これだけで良いのである、二人の若者の出会い、別れ、再会を映画にするには、余分な着色は必要がない。
久しぶりに、映画の原点に戻った作品を観ることができた。
また、この映画のセットの作りの素晴らしさ(まるでロケーションしたような)は称賛に値する。
更に音楽も素晴らしい、この映画にしてこの音楽ありである。
是非皆様にも、観ていただきたい傑作である。

1933年、フランス製作、モノクロ、89分、監督:ルネ・クレーヌ

明日のためにその480-サムライ

2020年08月13日 | ヨーロッパ映画
クールな画面に、シャープな作り。

武士道。
古来の日本の心と言っても良いそれは、私自身も探求したことがない、未知のものだ。
昔から、ヨーロッパを中心に、日本と言う国を知るのに、もてはやされたものではないだろうか。
今回紹介する映画は「サムライ」。
一人の殺し屋に、日本の武士道精神を投影した映画だ。
ストーリーを紹介しておこう。

コステロは組織に属さぬ、一匹狼の殺し屋。
彼はある組織から、クラブのオーナーの殺しを依頼される。
首尾よく仕事を終えた彼だったが、偶然にもそのクラブで演奏している女性に、現場から出てきた所を目撃されてしまう。
しかし彼女は、何故か警察の尋問で、コステロを見ても、犯人は彼ではないと偽証をする。
仕事の報酬を貰うため、コステロは、依頼主の代理人と会うが、いきなり発砲され、殺されかける。
意を決したコステロは、依頼主への復讐を始めることにしたのだが......

まずは、コステロを演じたアランドロンがクールで素晴らしい。
感情を表に出さぬ、抑えた演技が光る。
そして監督メルヴィルの、観客がひやりとするようなクールでシャープな画面作り。
一流の監督と、一流の俳優がコラボレーションすると、出来上がる作品もしっかりしたものとなる。

コステロは見事依頼主への復讐を果たす。しかしそれと同時に新しい殺しの依頼を受ける。
受けたのは、自分を偽証して助けてくれたクラブで演奏していた女性。
彼は再度クラブを訪れ、ピストルを忍ばせて彼女のステージに近づく。
しかし、クラブに潜んでいた刑事数名の銃弾を浴び、コステロは絶命する。
或る刑事がコステロのピストルを見て驚く。
なんと弾倉には1発の銃弾も入っておらず、空だったのだ。

彼は、彼女を殺すことを良しとせず、自ら死地へ向かったのだろう。
ここに武士道の精神を、ヨーロッパの人々は感じたのではないだろうか。
さすがの傑作と言える作品なので、観ていない方は是非観ることをお勧めする。

1967年、フランス製作、カラー、105分、監督:ジャン=ピエール・メルヴィル

明日のためにその478-1917

2020年08月09日 | ヨーロッパ映画
理解不能な撮影方法。

映画100年の中で、その技術は日進月歩、新しい手法が様々開発されている。
昔ウオン・カーウァイ監督の「欲望の翼」を観たとき、ラスト近くで、カメラが階段を上がってゆくシーンがある。
そのカメラの動きの流麗さに驚いた。多分当時の撮影技法で「コプターカム」と呼ばれる、ラジコンヘリコプターにカメラを取り付け撮影されたものと思しい。
いわゆる今で言う「ドローン撮影」の魁である。しかし当時は「どうやって撮影したのか」と自信疑問を持ったものだ。
今回紹介する映画は「1917」。
第一次世界大戦をテーマにした実話である。
ストーリーとしては、ごく単純で、フロントラインに攻撃中止の命令を、一等兵二人が自力で届けると言うものだ。(内一人は途中で死んでしまうが)
この映画の凄さは、ストーリー展開ではない。その撮影技術だ。
この映画の宣伝文句にもなっている「2時間1カット1シーン撮影」だ。
1カット1シーンと言うのは、一度もカットをかけず、次のシーンの始まりまで1台のカメラで撮影する方法だ。
日本映画では「溝口健二」が得意としていたものだ。
しかしせいぜいどの映画でも、この撮影方法は十数分程度もあればいいところで、2時間これを続けること自体無謀である。
私は最初からこのことに疑念を持ってこの映画と接触した。
そして、それが本当か、目を皿のようにして、私はこの映画を観た。
確かに、行けども行けどもカットがかかった形跡はない。常に1台のカメラで登場人物を追っている。
狭い道も、広い草原も、実に上手くカメラが回り込みながら、被写体をのがさない。
私はストーリー展開も上の空、その技術にあっけにとられた。
ただし、始まりから50分程のところで、一旦数秒間の暗転がある。カメラの前が暗くなって何も撮っていない状態があるのだ。
下世話な私は、ここで一旦カットがかかったのではと、推察している。

この映画の最大の見せ場は、兵隊が伝令を指揮官に届けるシーンだろう。
兵隊は真っすぐカメラに向かってはしってくる。カメラはその兵隊を真正面から撮る。
そのカメラは、常に一定の距離を保ち、ぶれることなく見事にそのシーンを撮り終える。
それも「レールショット」を使った気配がない。
想像に難くないが、人を後ろから撮るショットとより、前から撮るショットは遥かに難しい。
なぜなら、カメラマンが後ろ向きに、被写体を追わない限り無理だからだ。
ここまでくると、とても人間技ではない。
あとあとの楽しみで、この映画の撮影技法はまだ調べていない。マジックの種明かしを見るようでちょっと切ない気がするのだ。
監督は、サム・メンデス。
アメリカンビューティやロードツゥパーテションを作った名匠だ。
彼にとってもこの映画の製作は「賭け」だったのではないか。
その賭けに彼は見事に勝ち、素晴らしい映画を世に残した。

まだ観ていない方には、是非観ることをお勧めするとともに、決して予備知識を得ずに観ていただきたい。
きっと、その作りに驚かれるだろう。

2019年、イギリス、カラー、119分、監督サム・メンデス

明日のためにその460-ジョジョラビット

2020年06月25日 | ヨーロッパ映画
魅力的な演出、魅力的な演者たち。

第二次世界大戦が終わってから75年の時を迎える。
映画の世界に目を向けると、数多く製作されている映画に、ドイツの「ヒトラー」をモチーフにした作品が多いことにお気づきになるだろう。
20世紀を揺るがした「独裁者」まさにその所業は、悪魔に等しい物だった。
今回紹介する映画は「ジョジョラビット」。
一風変わった視点からヒトラーを捉えた作品である。
ストーリーを紹介しておこう。

ドイツの或るところに、母と二人暮らしの男児ジョジョが居た。
彼は妄想の中でヒトラーと話し、自分は純粋なナチズムを持った人間だと思っている。
しかし彼の本性は優しく、とても残酷なナチ党員にはなれない。
ある日ナチの少年たちがキャンプを行った。ジョジョもそこに参加する。
ある指揮官の大人からジョジョはウサギを手渡され、そのウサギを殺すよう命じられる。
しかしジョジョはウサギを抱いたまま、そのウサギを撫でるだけ。
業を煮やした指揮官は、ジョジョからウサギを取り上げ、いとも簡単にウサギを絞め殺し、捨ててしまう。
これを機にジョジョは「ジョジョラビット」と周りから揶揄される。
そんな折、ジョジョは手榴弾の訓練中に酷い怪我を負い、それがもとで最前線の任務からはずされてしまうのだが.......

最前線から外されたジョジョは、戦意高揚のポスター貼り等の任務につく。
彼の母はいつも優しくジョジョに寄り添う。
しかし彼女はレジスタンスで、戦争を終わらせようと言うステッカーを街の様々なとこに貼っていくのだ。
やがてジョジョは自宅に隠し部屋を見つける。
恐る恐る入っていくと、17歳のユダヤ人の女性が匿われていた。
彼は悩んだ、悩んで「彼にしか見えない」妄想のヒトラーに相談した。
当然ヒトラーはナチに誓いをたてたものなら、ユダヤは敵だと、徐々に吹聴する。
しかし、心優しいジョジョは、彼女を憎むどころか、淡い恋心を抱く。
そんな折、母が外出中に街に出たジョジョは、母が捕まり、縛り首にあって絶命しているとこを発見する。
ここのシークエンスが上手い。
一匹の蝶々を追いかけていたジョジョが、そのちょうど目線に母がいつも履いていた靴を見つける。それは彼が立った目線の先である。
映像はわざとフルサイズで、処刑場を見せずに、イメージでそれを分からせる手法は見事と言えよう。
この母親を演じたのが「スカーレット・ヨハンソン」美しく、気丈な母を見事演じている。

やがて戦争が終わり、ドイツが負ける時が来た。
ジョジョの妄想のヒトラーは、ついに彼の妄想から消えた。
ジョジョは、隠し部屋に隠れていたユダヤ人の少女を連れて表にでる。
この二人の最後の嬉しそうな笑顔が映画の救いとなっている。

因みにこの映画のファーストシークエンスの時に流れる音楽が、ビートルズの「抱きしめたい」のドイツ語ヴァージョンである。
映画に映るヒトラーを歓迎する市民を、ビートルズの人気絶頂のパロディにしているところがおもしろい。
また、エンドロールで流れる音楽が、デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」。
彼もまた東西冷戦時に、東ドイツ側をステージにしたライヴを行ったりして、平和の使者を担った歌手である。
この選曲にも監督のセンスの良さを感じずにいられない。

非常にしっかり出来、映画の本来を楽しめる作品なので、是非多くの方に観てもらいたいものである。

2019年、ドイツ製作、カラー、108分、監督:タイカ・ワイテイテイ

明日のためにその452-イエスタディ

2020年05月13日 | ヨーロッパ映画
ダニーボイルの秀作

ビートルズ。
言わずと知れた20世紀を代表する、ポピュラー音楽の巨匠である。
私自身も彼らに影響を受け、作詞・作曲を行うようになったし、今でも彼らの楽曲はよく聞く。
その偉大さは、計り知れないもので、今後現れることない現象であろう。
今回紹介する映画は「イエスタディ」。
ビートルズを中心にした、映画である。
ストーリーを紹介しておこう。

ジャックは売れない男性のアマチュアライブ歌手。
彼には長年ささえられている女性マネージャー、エリーがいる。
ある日ジャックはライブの帰り、いつもどおりエリーが運転する車から降り、自分の自転車で帰途につこうとするが、交通事故にあってしまう。
と、その瞬間、世界中で「12秒間」原因不明の停電が起きる。
ジャックは入院し、軽い症状だったので暫く療養した後退院する。
ジャックの友達が、彼の快気祝いを催す。
そしてその場で友達のリクエストに応え、ジャックはビートルズの「イエスタディ」を歌う。
その歌の素晴らしさに、友達は感激し、歌を称えるが、いくらジャックがビートルズの曲だと言っても彼らは分かってくれない。
そこでジャックはインターネットで、ビートルズを検索するが、いくら検索しても「カブトムシ」としてしか結果が出ない。
なんの因果か、彼はビートルズが存在しなかった世界で生きている事を気づく。
そこでジャックは、ビートルズの知っている曲を自分が作った楽曲として紹介し、一攫千金を狙おうとするのだが.......

やはり映画の作りが上手い。
ものの十数分で、映画の中に自分の身が置かれているのを観る者は感じるであろう。
私の勝手な持論だが、良い映画は、開始から十数分以内に客を取り込めなければならないと思っている。
この映画はまさにそれをやってのけている。
また、ニヒリストなダニーボイルは、劇中で、ビートルズ以外の有名な物「コカ・コーラ」等も歴史上から存在しないことにしている。
物語はジャックとマネージャー、エリーとの恋愛関係についても触れ、彼が正常な精神状態になるきっかけも作っている。
そしてラスト、ジャックとエリーの幸せな現実が描かれ、とても観客に人生の希望を与える良い映画に仕上がっている。
本物のエド・シーランも出演し、演技をこなしている贅沢な作品とも言える。
とにかく、奥の深い、しかしサラリと軽く表面をなでるような良い作品だ。
ビートルズの偉大さを再確認した私は、今彼らの楽曲を聴きながら、この文章を書いている。
是非多くの方に、観ていただきたい映画である。

2019年、イギリス製作、カラー、116分、監督:ダニーボイル。

明日のためにその431-哀しみのトリスターナ

2020年01月23日 | ヨーロッパ映画
女性=残酷な生き物?

女性の心理は分からない。
男性の視点では、女性の神秘は永遠の謎ではないだろうか。
こちらを向いたと思ったら、心はあちらの方向を向いている。
良かれと思ってとった行動に、急に不機嫌になる。
私も、いい年になったが、未だに女性は未知の存在と言える。
今回消化する映画は「哀しみのトリスターナ」
シュールレアリスムの監督として有名な「ルイス・ブニュエル」の後期の作品だ。

ストーリーを紹介しておこう。
孤児のトリスターナは、老夫婦に引き取られる。
そして、里親の母が亡くなった時、彼女は里親の父にその貞操を奪われる。
ある日外出したトリスターナは、若い画家と知り合い、恋に落ちる。
里親を捨て、画家と駆け落ち押した彼女だったが.......

ブニュエルの作品としては、少々作りが荒く思われる。
特に時間経過の説明が少々不足しているとおぼしい。
しかし、それを除けば後は完璧に近い。
特に後半、トリスターナが、足にできた腫瘍のため、足を切断することになった以降。
その後の彼女の変貌が凄い。
それまで天使のようだった彼女が、突然悪魔に変わる。
特にメイドの息子の聾唖者が、彼女の裸を見たがるシーンで、トリスターナは惜しげもなく、服の前をはだけ、裸を見せた時の彼女の表情。観ている者の背筋を凍らせるには十分の「悪魔の微笑み」である。
このシーンを観ただけでも、この映画に価値はある。
ラスト、里親の父と正式に結婚を果たしたトリスターナだったが、暫くして父が心臓の発作を起こす。
そして、死に行く父の表情を冷淡に見つめる彼女。
男性にとって女性は魅力的であると同時に、悪魔の使いなのではと思わせる映画である。
観ていない方がいらっしゃったら、是非観ることをお勧めする。

1970年、イタリア製作、カラー、99分、監督:ルイス・ブニュエル


明日のためにその430-賭博師ボブ

2020年01月21日 | ヨーロッパ映画
息詰まるサスペンス。

「IR法」
日本で、今一番興味が注がれている法案だろう。
一旦は国会を通過したものの、今は野党の反対にあって、計画は頓挫しようとしている。
この法案の一番の注目は、カジノである。
一夜にして、億万長者になれるカジノは、博打好きとってはとても興味深いものであろう。
今回紹介する映画は「賭博師ボブ」
一人の賭博師を描いたドラマである。
ストーリーを紹介しておこう。

裏社会にも精通した、伝説の賭博師ボブ。
彼は、街の賭け等を通し、生活をしている。
ある日彼は、仲間からドーヴィルのカジノの金庫に、大量の現金が眠っていると言う情報を聞く。
一念発起した彼は、自分の最後の大仕事として、その金庫から現金を奪う計画を立てる。
昔の仲間を何人か集め、周到な準備を重ね、その時を待った。
しかし、意外な所からその情報が警察に漏れる。
果たして彼らはカジノから現金を強奪できるのであろうか.......

映画前半は、ボブの街の顔役ぶりを丁寧に映し、彼の存在の大きさを上手に描いている。
後半になり、カジノ襲撃計画を話し出す頃から、映画は一気にスリルと緊張感を増してくる。
ここが凄い。観ている者を、映画に見事に釘付けにさせる手法は実に素晴らしい。
そして全編を飾る音楽が良い。
この映画は、ヨーロッパ映画であるが、全編音楽が殆ど途切れない。その音楽のセンスも素晴らしい。
そして流麗なカメラワークで、パリの街を捉えていく、この映画の見どころの一つだろう。
この映画は、全編ロケで撮っている。このあたりが、後のヌーベルバーグに、多大な影響を及ぼしたと言われている。
監督は「ジャン=ピエール・メルヴィル」
フィルムノアールの名匠である。
ここまでの映画、なかなかお目にはかかれない。
観ていない方には、是非観ることをお勧めする。

1955年、フランス製作、モノクロ、102分、監督:ジャン=ピエール・メルヴィル

明日のためにその420-穴

2019年12月15日 | ヨーロッパ映画
張り詰める緊張感。

映画の作りは、アメリカ、ヨーロッパによって違いがある。
大仰な音楽で、シーンを盛り上げたりするのはアメリカ映画。
音楽が少なく、淡々とシーンを重ねていくのがヨーロッパ映画である。
ラストシーンも「ハッピーエンド」であるアメリカ映画に比べ、様々な形のヨーロッパ映画である。
今回紹介する映画は「穴」。
フランスの名匠ジャック・ベッケルの作品である。
ストーリーを紹介しておこう。

パリのラ・サンテ刑務所。
刑務所内の改装のために、ガスパールと言う男が房を変えて入所することになる。
新しい房には、既に4人の個性的な囚人が収監されていた。
しかし、この房では、密かに脱獄計画が進んでおり、新入りのガスパールも、その仲間になることになる。
計画は完璧で、地下水道への抜け道を、壁を突き破ることで、脱獄できることが分かった。
そして囚人達は、毎日その壁に穴をあけるべく深夜に行動を起こす。
そしてついに、最後の壁を破り、脱獄の手配は全て完了した。
早々に脱獄すべく準備を始めた彼らだったが..........

この映画は、脱獄にいたるための作業を、淡々と描いている。
同じ事を映画を観ている観客たちは、観させられることになる。
しかし、ここが良いのだ。音楽は一切劇中に流れず、そこにはピーンと張り詰めた緊張感と静寂感がある。
だから全く飽きることなく、この作品は観られるのだ。
同じような映画でロベール・ブレッソンの「抵抗」と言う映画があった。
あの映画も、静寂を絵に描いたような名作である。

この「穴」と言う作品、観る者を震えさせるような「緊張感」と「静寂感」では、映画史に残る傑作と言えよう。
果たして脱獄計画は成功し、晴れて自由の身に彼らはなれたのか。
それは、読者の皆様の目で確かめていただきたい。
まだ観ておられない方には、是非とも観ていただくことをお勧めする。
また、原作が、あのジョゼ・ジョバンニであることも、付け加えておこう。

1960年、フランス製作、モノクロ、131分、原作:ジョゼ・ジョバンニ、監督:ジャック・ベッケル