情念突き動かされる映画。
「情念」
感情が刺激されて生ずる想念。抑えがたい愛憎の感情。
または。
深く心に刻みこまれ、理性では抑えることのできない悲・喜・愛・憎・欲などの強い感情。
人々はどんな時この情念を抱くのだろうか。
ストレス社会の現代、案外情念とは人の常識の中に浅く埋もれているのかもしれない。
今回紹介する映画は「魚と寝る女」
ストーリーを紹介しておこう。
湖の釣り小屋を経営している影のある女。
彼女は釣り小屋の世話だけではなく、時には客の要求に応え、自らの体さえ売り物にしている。
そんな彼女のところへ、殺人を犯した男がやってくる。
彼は釣り小屋を要求し、そしてその小屋で夜、自殺しようとピストルを出す。
そんなところへ女は何を察したのか現れ、男の足に怪我を負わせ、自殺を食い止める。
それをきっかけに、男と女は近い関係になりつつあったのだが.......
この映画の主役二人の名前は無い。正確に言うとあるのだが、劇中お互いを呼び合うこともなく、他人も彼、彼女の名前を呼ばない。
映画の最初の字幕に配役名として出ているのかもしれないが、ハングル表記(日本語字幕なし)なので、私には最後までこの二人の名前は分からなかった。
そして、セリフも極端にこの映画は少ない。
しかしさすがキムギドク。朝もやに映る湖畔の風景など、絵的には素晴らしい一服をもらうことができる。
後半、女の情念は極地に達し、男を自分一人のものにしようと思う。
しかし男は、自分はお前のものではない、とはっきり言い、女を貶し、足蹴にする。
だが女も自分の命を懸けて男を止めにかかる。
女の情念が、沸点に達したのだ。
それを見た男も、やがて彼女に惹かれ、共に暮らすようになるのだが、悲しい結末が待っている。
二人の見た、お互いの「情念の成就」は何だったのだろうか。考えるたびに悲しくなる映画である。
しかし、観るものの心を震わせるギドクの作りは見事、彼の傑作のひとつに数えられるべき映画である。
是非観ていない方は、観ることをお勧めする。
2000年、韓国製作、カラー、90分、監督:キムギドク