Tさんの道場、最後の日

これがマーブー。腰を落としていくと、すっと楽になる部分がある。その姿勢だからね。
いいよ。よし。うまい。もうちょっと、下げて。
はい。よし、その調子。

小さな子から、明日から高校生という子までいる道場。
Tさんが、公園で遊んでいた子どもたちに「空手教えてあげようか」と
声をかけて始まった道場。
いま、Tさんとともに、先生となっているのは、そのときの1期生２人です。

お元気だったのに。
楽しいことをしなくちゃ、と言って、いろんなアイデアをくれたのに。
要人のSP、筆職人、そして、定年退職後は、遊んでいるより働こうといって、
地下鉄のトイレの掃除をし始めていらした。

トイレはおもしろい。
人生の縮図が見える。
食べ物のかすや弁当箱が置いてある。
着替え一式。
風呂道具一式が、忘れられていたりする。
そして、この頃の便は、ぐちゃぐちゃ。
ちゃんと形になっていないものが、多い。
駅のトイレだから、家でしてこなかった人が使うわけだが、
体調や、精神状況がトイレからみえる。

なんか、それってすごく大事なこと、
って思うことを聞かせてくれたのに。

今年お会いしたときには、風邪を引いたみたいで声が出ないんだよ、
そんな風におっしゃっていて、お話もそんなにしなかった。
でも、風邪が治ったら、またお話聞かせてもらえると思っていた。

それなのに、
それなのに、Tさん、亡くなってしまった。
ガン。
あまりに急で、お兄さんは「神隠しにあったようだよ」っておっしゃっていました。

今日、Tさんの道場の最後の日、行ってきました。
そうしたら、二人の先生の、子どもたちへの声の掛け方は、
どこまでも明るく、励まし、きちんと伝える、
まるでTさんがいるようでした。

Tさんの残してくださったものは、それぞれの人の心に、
刻まれています。
私もたくさんたくさん、感謝しています。
ほんとうに、ありがとうございました。

さようならなんて、まだ信じられなくて・・・
でも、ちゃんとさようならをしなくてはいけないんですよね。

Tさん、どうぞ安らかにおやすみください。
心からご冥福をお祈りいたします。