サラ☆の物語な毎日とハル文庫

トワイライトエクスプレスの最終運行

3月11日、大阪を出発し、日本海側をまわって、札幌まで22時間かけていく寝台特急の「トワイライト・エクスプレス」が最後の運行を行った。

列車は往復運行だから、片や札幌では、大阪行きのトワイライト・エクスプレスが同時に大阪に向けて出発した。

26年間、ホテルのスイートルームを模した豪華客車にフルコースのディナーと、乗客の夢を乗せて走行した列車が、ついにラストランとなったのだ。

出発するときも大賑わいなら、札幌発大阪行きのトワイライト・エクスプレスを迎える大阪駅ホームにも鈴なりの人だかり。

若者も年よりも男性も女性も、2000人が列車を見送り、2000人が列車を迎え入れて、その最後の姿を見つめた。 

 

大阪駅を過ぎて京都府に入ると、高槻と山崎の間に「サントリーカーブ」という、列車の写真撮影の有名なスポットがある。

北海道の室蘭線沿線、伊達市有珠のあたりにも、列車が山間をS字にカーブする姿が造形的に美しい「宇宙軒S字カーブ」という有名な撮影スポットがある。

不便な場所にも拘らず、そこにもたくさんの人たちが集まってきて、列車の姿をとらえようと、カメラを固定させていた。

そこには鉄道を愛してやまない人たちの、追っかけの物語があるのだろう。

 

話は変わるけど、記憶に残る列車の旅は、アガサ・クリスティが書いた『オリエント急行殺人事件』のなんともスリリングな殺人の旅。

アガサ・クリスティは二番目の夫で考古学者のマックス・マローワンに同行するかたちで、フランスのカレーからオリエント・エキスプレスに乗って、ヨーロッパを横切り中東のトルコまで、何回か往復した。

トルコに行ったときに泊まったことがあるけれど、アガサ・クリスティの定宿はイスタンブールにあるベラパレスという由緒あるホテル。

その411号室で、クリスティは『オリエント急行殺人事件』を執筆したといわれる。

列車が走り抜ける轟音と、そのスピードとともに緊迫感が増していく犯人探しの息詰まるサスペンス。

その犯人探しには、思いよらない展開が待っている。

全くの事前情報なしに、この小説を読んで犯人を言い当てることができる人がいたら、スゴイと言うほかはない。

この小説のようなプロットは後にも先にも、一回しか使えない禁じ手だ。

それをクリスティは思いついて、見事に小説にしてしまった。

「ミステリーの女王」という賛辞は当然である。

 

日本列島はそれほど広くはないけれど、日本海側を北陸から東北、北海道へかけて走るトワイライト・エクスプレスにも、殺人という物騒なものではなく、素敵な物語があったに違いない。

言葉にして語られなくても、列車が各地の風景の中を走り抜けるシーンに、列車自身の物語が感じられる。

きっと無機物といわれる「モノ」にも、それをめぐる人の思いが絡んで、人間と変わらない心が備わるのかもしれない。

 

だから、あんなに大勢の人たちに見送られ、迎えられ、「ご苦労様」「ありがとう」と言葉をかけられ、涙を流して惜しまれた。

列車自身も得意だったろう。

「僕はいい仕事をしたんだ」と列車自身が涙したかもしれないし、満足げにため息をついたかもしれないと想像するのだ。

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