サラ☆の物語な毎日とハル文庫

キャロル・オコンネルの『魔術師の夜』

謎と伏線が錯綜する複雑な小説。

挟み込まれる幾つものサイドストーリー。

第二次世界大戦当時のパリと、現在のニューヨークという二つの時空。

Shell game という原作のタイトルは、

「ペテン」「巧妙なごまかしのゲーム」という意味だそうだ

失われたイリュージョンの種明かしは?

そのマジックを使った殺人を阻止できるのか。

狂気と正気。

 

これはとてつもなく分かりづらい小説だ。

第二次世界大戦当時のパリ、

フォースティンのマジックシアターに集まった若者たち。

時を経て、老マジシャンとして描かれる現代に生きる彼ら。

 

ハルパン氏のエピソードがいい。

マラカイが(中継地の仮の)収容所に収容され

ステージでバイオリンを演奏中のルイーザを、

衆人の目前で連れ去るシーン。

それを目撃したハルパン氏。

なにしろ収容所もステージもドイツ兵に囲まれていたのだ。

──マラカイ最高の奇術のトリックだった。

 

歪んだ鏡に映ったチャールズ・バトラーの顔は、

伝説のマジシャンにして従兄弟のマックス・キャンドルに生き写しの

超がつくほどハンサムな顔だった。

それをとらえて、マロリーの心はギュッとなる。

結局チャールズがマックス・キャンドルほどの美男子ならば、

マロリーは人がよすぎるのが邪魔をしても、

問題なくチャールズに恋をしていただろう。

 

マラカイとマロリー、惹かれあう魂。

恋とも置き換えられそうな緊張感と密度濃い空気感。

犯罪を犯す者とそれを追う警察官。

 

マロリーが警察署の中に生息するネズミ“驚異のオスカー”を

拳銃で撃ったエピソードも印象深い。

このエピソードは、前半でけっこう長く尾を引く。

コフィ警部補、ライカー、マロリー。

コフィとライカーはマロリーを警戒するが、

結局のところ二人ともマロリーの味方なのだ。

マロリーの側につくか、そうでないか。

マロリーにとってはどちらの側につくのかが問題。

 

数えたわけではないが50は軽く超える(たぶん)シーンの連続。

 

凄い力量だと関心する。

知能指数の高い登場人物を描くオコンネルの知能も高いのだろう。

読者をぐいぐい引っ張っていく表現力

 

それでも、これはわかりにくい小説だし、内容として強引なところがある。

オコンネルの表現力なくしては、バラバラになっていたかもしれない

際どいところで繋がっている。

 

刑務所で刑に服したマラカイを最後の最後まで、

弔うところまで面倒を見たマロリーの人間味と、

プラドを追い込むマロリーの非情さ。

悪に対して、徹底的に戦うメンタル。

 

どうだろう。

すごいミステリーではあるけれど、共感しにくい。

ただ構成のたくみさに、脱帽する。

 

それと、テンションの高さ。

ピリピリした空気と表現してもおかしくない漲る緊張感。

 

フォースティンのマジックシアターのボーイズは好きではないし、

殺人好きの爺さんたちに付き合いたくはない。

が、面白い!!

彼らがいかにして戦争を行きぬいたか。

それは目を見張る物語だ。

 

結局、オコンネルはイリュージョン絡みの小説が書きたかった?

戦争の恐怖と生きるか死ぬかの中の殺人を描きたかった?

怪物たちは他にいくらでもいる。

マロリーは怪物ではない。

誰よりも共感力のある。

無慈悲ではあるが人間味のある人物像。

そういうところを描きたかったのだろうか。

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