サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『ミレニアム4』は面白いのか?

 早川書房から出ている『ミレニアム』は2011年のベスト1の小説だった。 
夢中になって読みふけった本。 
だけど、作者のスティーグ・ラーソンは本になるのを待たずに急逝してしまった。 
世界で何千万部売れた本なのに、その成功を見ないままにこの世を去ったのだ。 
 
ラーソンは、第6部までミレニアムを出すもりだったらしい。 
それも中断。 
だけど一作、一作完成された世界なので、 それはそれでいいかなと思っていた。 
 
ところが続編が別の著者によって書かれ、出版されたという。 
読む気になんかならなかった。 
「冗談じゃない。 本人の作品をほかの人が書き継いでも、
違った作品になるだけよ」
 と腹がたったくらいだ。
 
 でも、つい先日、下記の文章をネットでみつけて 
もしかして、面白いのかな、と思った。 
どうでしょう。 
そういうことなら、読んでみようかな。 
ほんとにラーソンの世界を描き切っているのだろうか? 
もしそうなら、絶対面白いに違いないけど。
 
 ファンの心は揺れるのだ。 
 
【【文芸評論家の杉江松恋さんの文章の引用。出どこはどこだったかな?】】 
 
【今週はこれを読め! ミステリー編】100年に1作の完璧な続篇『蜘蛛の巣を払う女』 2015.12.21 20:44  
もしかするとこれは大事件なのかもしれない。
『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』を読んだときの、最初の素直な感想だった。
いや、凄い。こんなことがありえるのかと思うほど凄い。
あまりに衝撃的だったので、自分で解説を書いた本ながらここで紹介させていただく。
どうか、ご勘弁願いたい。
ご存じのとおり〈ミレニアム〉はスウェーデン作家スティーグ・ラーソンによる長篇三部作のタイトルだ。第一部『ドラゴン・タトゥーの女』が2005年、第二部『火と戯れる女』が2006年、第三部『眠れる女と狂卓の騎士』が2007年と、1年に1冊ずつ刊行されて、世界的な大ヒット作になった。
問題は、ラーソンが自身の成功を見届けられなかった点で、『ドラゴン・タトゥーの女』の刊行直前に、彼は急逝してしまっていたのである。
世界で合計8000万部もの売上げがあり、メガヒット作家の仲間入りを果たしたというのに。
映画化されたこともあり、〈ミレニアム〉について知らない人は少ないと思うが、一応内容を振り返ってみよう。
 
第一部『ドラゴン・タトゥーの女』で主役を務めるのは月刊誌「ミレニアム」を発刊している会社の共同経営者であるミカエル・ブルムクヴィストである。
彼はとある経済人の悪事を告発しようとしていたのだが、罠にかかって自分が刑務所に収監されそうになってしまう。
そこに救いの手をのべたのがとある引退した財界人で、彼はミカエルに有益な情報を与える代わりに、自身の一族がかつて見舞われた悲劇について再調査するように申し入れてくる。
第一部は、その真相をミカエルが素人探偵のように調べていく、謎解きミステリーのような構成の物語である。
 
第二部『火と戯れる女』では前作でミカエルのアシスタント役を務めていた女性、リスベット・サランデルが主役になる。
ハッカー集団に属し、天才的な数学能力の持ち主である彼女は、かつて陰謀により精神病院に強制収容されていた。
その過去の清算という大仕事が残っていたのだ。
ミカエルはミカエルで大規模な人身売買組織を調査していくのだが、2人の行動の交点で事件が起き、今度はリスベットが絶体絶命の危機に陥る。
第一部に比べて動的な要素が多く、リスベットを主役にした犯罪小説の性格が強いのが第二部の特色だ。
事件の黒幕は意外な人物であり、痛みを感じない巨人という化物のような敵役も登場する。
 
第三部『眠れる女と狂卓の騎士』も前2作とは調子ががらりと変わる作品だ。
『火と戯れる女』の最後で傷ついたリスベットは、自身の過去にまつわる案件で告発を受け、法廷で裁かれる立場になる。
彼女を抹殺しようと巨大な勢力が動き始めたことに気づいたミカエルは、支援のために行動を開始する。
謀略小説であり、法廷スリラーであり、という柄の大きな作品であり、三部作の完結編としてとらえればこれ以上はないという結末が訪れる。
 
このように、三作の風合いがそれぞれ異なり、どれも独立した作品として読めるし、通読すればさらにおもしろさが増す、という夢のような作品であった。
〈ミレニアム〉が文化の垣根を越えて世界中でヒットした理由はいろいろあるだろうが、この「なんでもあり」の魅力が大きかったことは間違いない。
さて、そこで第四部『蜘蛛の巣を払う女』だ。
あえてあらすじの説明はしない。
ここまで紹介を読んできてくださった方ならば、『眠れる女と狂卓の騎士』の後日譚として接続する内容であり、前3作の多種多彩な魅力が砕片化されて散りばめられた作風であると説明すれば十分だろう。
作者のダヴィド・ラーゲルクランツは伝記やノンフィクションを中心に書いてきた作家である。
本書を書くにあたってはスティーグ・ラーソンの三部作を何度も読み返して研究したという執筆秘話を地元スウェーデンの媒体に発表しているという。
読者はどうしてもオリジナルであることにこだわってしまうものだ。
レイモンド・チャンドラーの絶筆をロバート・B・パーカーが補筆した『プードル・スプリングス物語』、覆面作家トレヴェニアンのスパイ・スリラー『シブミ』の前日譚となる物語を才人ドン・ウィンズロウが書いた『サトリ』などなど、作家の死後に別の作家がシリーズを書き継いだ例は枚挙に暇がない。
イアン・フレミングの〈007号〉などは十指に余る作家による「続篇」が書かれているほどだ(その中にはあのジェフリー・ディーヴァーも含まれている)。
それらの作品がどんなによく書けていても、オリジナルのファンは文句を言うだろう。
仕方のないことだ。
続篇の作者は過去の記憶という大敵と戦わねばならないのである。
本書もまた、オリジナル三部作ファンの辛辣な視線に晒されるはずである。
しかし安心していただきたい。
これは100年に1作と言っていいほどの、これ以上はない完璧な続篇なのである。
作中に「継ぎ目」を見つけられる読者は少ないはずだ。
いや、むしろ作者が代わったことにさえ気づかない人のほうが多いのではないか。
断言するが、そのくらい出来はいい。
原作のファンも、いや、原作のファンほど期待して読んでいただきたい。
内容は独立しているので、前3作を読んでいない方でも手に取ってもらえるはずである。
ラーソンのパートナーだったエヴァ・ガブリエルソンは、故人の遺稿が不完全ながらデータの形で保存されており、それを出版する機会を望んでいると自伝『ミレニアムと私』(マリー=フランソワーズ・コロンバニと共著早川書房)に書いていた。
そちらのバージョンを読んでみたい気もたしかにするのだが、このラーゲルクランツ版が正規の(ラーソンが望んでいた)続篇なのだと言われてもたいていの読者は信じてしまうと思う。
とにかく、そのくらい自然なつながり方なのだ。 
ラーゲルクランツは3作契約を結んでおり、『ミレニアム6』までは確実に出るとのことだ。
1年を執筆準備に当て、次の1年で書く体制ということなので、2年に1冊ずつのペースで刊行される。
なんともおもしろいことになってきたものである。(杉江松恋) 
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