スー・グラフトン作 嵯峨静江訳
ハヤカワ書房 2003.9.15発行
原題は『“Q”is for Quarry』
スー・グラフトンによる女探偵キンジー・ミルホーン・シリーズの17作目。
『アリバイのA』が最初の作品で、それからは、アルファベット順にタイトルがつけられています。
物語は、昔からの知り合いの元警部が、昔の迷宮入り事件を調べたいと、キンジーの事務所を訪れるところから始まります。
キンジーと心臓疾患を抱える元警部と、非ホジキンリンパ種というガンの治療中の、73歳になる元刑事という珍妙な組み合わせで、身元不明の少女の18年前の未解決事件の解決に乗り出します。
というのも、少女の遺体の第一発見者が、偶然にもこの二人の元警官だったからなのですが。
スー・グラフトンの情景描写が、読者の心を惹きつけます。
「…部屋から出ると、外はすっかり暗くなっていて、気温もぐっと下がってきた。町の明かりが煌々としているにもかかわらず、黒い厚紙に刺した針の穴から光が射し込むように、夜空には星がまたたいていた。
月はまだ出ていなかったが、月が昇ったときに闇が晴れ、砂漠が銀の大皿のように輝くさまが目に浮かんだ。」
「…オフィスを閉め、フォルクスワーゲンに乗り込み、カビロ・アヴェニューを抜けて101号線にむかった。穏やかな天気で、まるでスキム・ミルクを溶かしたかのように、景色がかすんでいる。車の窓を開けると入ってくる風が髪をなびかせ、なんとも心地よい。」
キンジーはジャンクフードで元気にならない人間はいないと、かたく信じています。
そこで、病気で身心ともに弱っている元刑事のステーシー・オリファンドに“コークとフライドポテトとチーズ入りクォーター・パウンダー”を差し入れるのです。
73歳の老人であるステーシーは、「こういうものは食べたことがないんだ」と 自分のハンバーガーを疑わしそうな目で眺めたあげくに、かぶりつきます。そして、「彼の口からほとんど無意識に嘆声が漏れた」のでした。
それからというもの、老ステーシーが次々にジャンクフードに挑戦していくところが愉快。
読ませるミステリーというのは、こうした物語の本筋とは関係ないエピソードが面白いです。スパイスのように、小説全体を引き立てます。
そんなわけで、シリーズ17作目とはいいながら、わたしは十分に楽しんだのでした。
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