『アイデアのつくり方』というのは、知的発想法について書かれた古典的な本。
コロナ自粛中はずっとビジネス本の仕事をしていて、
そのときに話に出てきたもの。
著者はジェームズ・W・ヤング。
実業家として名をはせたヤングが、1940年にアイデアの発想法について書いた本で、
以来、いろんな人によって語り継がれてきたロングセラー(ということらしい)。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
という彼の言葉は、広告業界、ビジネスの世界ではあまりにも有名。
本文だけで言えば62ページという薄い本なのに、知恵がいっぱい詰まっている。
でも、言いたいのは、この本にシャーロック・ホームズが登場するってこと。
ホームズが登場したとたん、ちょっと堅苦しい、ちょっと理屈っぽい本の内容が、
途端に魅力的に感じられるのだから面白い。
「子どもの本が話題に挟まれるだけで、人々の共感を磁石みたいに引き寄せる」
というのは、わたしがいつも思ってること。
これは真理だと思っていて、いろんなところで見受けられるし、実証されている。
経済学にロビンソン・クルーソーが登場したり、トム・ソーヤーが登場したり。
子どもの本は世界共通言語なのだ。
本を読んだ誰もが知っている心の中の共通体験。
だから子供の本の名前を出せば、それがスイッチになって、その人の心の一番楽しい記憶を呼び起こすことになる。
「なになにっ、シャーロック・ホームズだって」と虫が光にひきつけられるように、
子どもの目がお菓子にくぎ付けになるように、心が吸着されるのだ。
(シャーロック・ホームズは厳密に言うと子どもの本ではないけれど、
子どもの頃に読んで夢中になった本。子どもの本のリストに入れたい。)
『アイデアのつくり方』に話を戻すと、
アイデア作成術には5段階ある、というのが著者の持論だけど、
第1段階と第3段階の説明部分に、シャーロック・ホームズが登場する。
アイデア作成の第1段階というのは、資料の収集、情報のインプットだ。
「諸君はシャーロック・ホームズの推理小説の各所に出てくる
あの有名なスクラップ・ブックのことを覚えておられるだろう。
そして、この名探偵がそのスクラップ・ブックの中に
自分が書きためた個々の半端な資料を
様々な角度から何度も牽引分類して暇つぶしをする
あのやり方を思いだされるに違いない。
私たちは、アイデア作成家の製粉機にかける穀物となりうる、
ほんの束の間に消え去る莫大な量の資料
──新聞の切り抜き、出版物の記事、直接自分が体験した事柄など──
にしょっちゅう出くわしている。
こういう資料から一冊の有益なアイデアの種本を作ることも可能である。」
第3段階は、アイデアを孵化する段階。
「この段階において問題を意識の外に移し、
無意識の創造過程を刺激するのに役立つことで
諸君にできることが一つだけある。
諸君はシャーロック・ホームズがいつも一つの事件の最中に捜査を中止し、
ワトソンを音楽会にひっぱりだしたやり方を記憶されているにちがいない。
実際家で融通のきかないワトソンにとっては
これはひどくいらだたしい手順であった。
しかしコナン・ドイルはすぐれた創作家で
創造過程というものがどんなものかをよく知っていたのである。
だから、アイデア作成のこの第三段階に達したら、
問題を完全に放棄して何でもいいから自分の想像力や感情を刺激するものに
諸君の心を移すこと。
音楽を聴いたり、劇場や映画に出かけたり、詩や探偵小説を読んだりすることである。」
ホームズが登場すると楽しい。
とたんに、著者の話はわかりやすくなり、頭にすーっと入いるようになる。
子どもの本の魔法だ。
ちなみに第2段階は心の中で集めた資料を咀嚼する。つまりパズルのように組み合わせること。
第4段階は、アイデアの誕生で、第5段階はアイデアを具体化し、展開させることでした。
ホームズの行動というのは、アイデア作成の原理にもかなっているということかな。
すばらしい!