『ナルニア国物語』にしろ『指輪物語』にしろ、あるいは『ピーター・パン』『不思議の国のアリス』、日本を振り返ってみれば上橋菜穂子の『守り人』シリーズにしろ、ファンタジーはここではないどこか違う場所で展開される。
いずれも壮大な物語。それ自体で一つの世界を形作る。
『メアリー・ポピンズ』の場合は、妖精(と思われる)が乳母の姿を借りて、向こうから街に、そして自分たちの家にやってきてファンタジックな出来事が起こる。
自分たちの身近な生活の中で起こる不思議な、普通ならあり得ない話。その背後に神話や妖精の世界を予感させるけれど、とりあえずはこちら側の世界の物語だ。
だから、同じファンタジーのくくりの中でも、どきどきするタイミングや間合いが、他の物語とちょっと違うのではないかと思うのだ。
コリーおばさんがジンジャー・パンの飾りについていた金色の紙の星を空に貼り付けると、キラキラ輝く夜空の星になる。
まだ言葉をしゃべれない赤ん坊のジョンとバーバラが、ムクドリと話をする。女の子のバーバラはムクドリのためにビスケットを半分とっているそうな。
メアリー・ポピンズの誕生日と重なった満月の夜に、ロンドン動物園で動物たちの“くさり輪のおどり”が繰り広げられる。キングコブラも踊る。
ブレアディス星座の七つ星のひとつである“女の子”が天から降りてきて、ロンドンの百貨店でクリスマスの買い物をする。
笑いガスが充満したメアリー・ポピンズのおじさんが、宙に浮いたまま降りれなくなっている。
こんなおかしなエピソードが次々につづられる。言ってみれば短編集。
不思議だけど身近に起こる出来事の数々。
不思議さは後でジンワリ効いてくる。
この「不思議が向こうからやってくる」意外性!
「こんなのありか」と言ってる端から、信じる幸せに浸りたくなる。
いつもの日常が違って見えて、切ないくらい嬉しくなるのだ。
だから『メアリー・ポピンズ』は愛される。
20世紀の作品だから、もう古典の中に入ってしまうのだろうか。
それでも、すぐれた作品は宝だもの。大事に次世代に繋いでいきたいものだ。
まあ、こちらが頑張らなくても、作品のもつ魅力でいつまでも色あせないとは思うけれど。
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