長野県の松本市美術館で「篠山紀信展 写真力」という企画展が行われている(10月12日まで)。
8月の最終日に訪れた松本の街では、いたるところにジョン・レノンとオノ・ヨーコのツーショットが展示されていた。
2人がニューヨークのセントラルパークのベンチに座り、柔らかくキスを交わしている写真だ。
つまり写真展の案内のポスターなのだけど。
写真は、篠山紀信が、ジョンの遺作となったアルバム『ダブル・ファンタジー』のジャケット写真を撮ったときのもの。
ジャケット写真はモノクロ化されているけれども、実際には背景がにじんだ色合いのカラー写真だったことがわかる。
撮影が行われたのは、1980年9月15日のこと。
『ダブル・ファンタジー』は5年間主夫生活を送っていたジョンの復帰第一作のアルバムだった。
幸せそうなツーショットの写真撮影から二ヵ月後、11月17日にアルバムがリリースされ、それから3週間後にジョンがピストルで撃たれて殺害されるという、例の痛恨の事件が起こった。
一枚の写真には、そんな物語が封じ込められている。
松本にはセイジ・オザワ・松本フェスティバルで行ったのだけど、この写真に出会って、ジョン・レノンのことを痛烈に思い出した。
そして先週の19日には軽井沢の離山房に行くチャンスがあった。
離山房は1977年にオープンしたカフェ。
その年から1980年の夏まで、ジョン・レノンとオノ・ヨーコは息子を連れて毎年のようにこの店を訪れ、コーヒーを飲んだり、店奥の東屋でくつろいだりして過ごしたのだそうだ。
店の中に、その当時の写真が飾られている。
ジョンもオノ・ヨーコも、息子であるショーンくんも、とても幸せそうに写真に写っている。
(ちなみにジョンはいつも、ブレンドをお代わりして2杯飲んでいたということだ。
そのブレンドを注文したけれど、とても美味しいコーヒーだった。)
しかし、当然ながら、1980年の夏を最後に、ジョンが訪れることは二度となかったわけだ。
ポール・マッカートニーと同様、まだ生きていて、活躍してくれていたらよかったのに。
運命とは、抗いがたい。
何はともあれ、夏の終わりに松本に行ってジョン・レノンと出くわし、秋になって軽井沢でまたジョンの面影をしのんだ。
ビートルズが近く感じられる。