今回は『寄生獣』に登場する「田村玲子」について語ってみようと思います。
『寄生獣』では、多くの人間の脳を奪った寄生生物が登場しますが、
その寄生生物の中でも、「田村玲子」はかなり特別な位置づけにいる
寄生生物でした。
寄生生物がなぜ生まれてきたのかを真剣に考え続けた彼女の行動は、
『寄生獣』という物語のテーマにも、
主人公・泉新一の心情にも、大きな影響を与えました。
今回は「田村玲子」の思想や行動を登場時から仔細に追いつつ、
彼女が求めたものはなんだったのかを考えていこうと思います。
では、どうぞ↓
教師・田宮良子
田村玲子が『寄生獣』の物語で初めて登場したとき、
彼女は「田宮良子」という名前で登場しました。
寄生生物でありながら、人間固有の身分を失わず
そのまま引き継いだ珍しい存在
田村玲子の初登場時の物語的位置づけはそんな感じでした。
ミギー(主人公・新一の右手に宿った寄生生物)も
「あんなヤツがいるとは驚きだ!」
「しかも教師として人間にものを教えている。これは大変な才能だぞ!」
と大絶賛をしていました。
『寄生獣』の物語開始当初、人間の脳を奪った寄生生物たちは
手近な人間たちを無差別に襲撃し「食事」をしました。
その際のズタズタに引き裂かれた食べかすが世界各地で発見され、
人間社会では「ミンチ殺人」と恐れられることになっていました。
寄生生物たち全体が食べかすを完璧に隠し、人間社会に溶け込んだ方が
よいと学習するのはこのしばらく後になるのですが、
田村玲子は完璧に人間社会に溶け込んだ寄生生物として
初めて物語に登場したのでした。
しかも、さらに驚くべきことに彼女は男性に寄生した
寄生生物と性交をし、妊娠することに成功していました。
田村玲子の肉体に宿した生命は、どうやら何の変哲もない
人間の赤ん坊のようでしたが、その上で彼女は
主人公・新一に問います。
「だとすると、わたしたちはいったい何なの?
繁殖能力もなくてただとも食いみたいなことをくり返す…
こんな生物ってある?」
どうやら田村玲子は、自分たち寄生生物は一体なにものなのか…
ということを真剣に考えているようでした。
彼女は人間でありながら寄生生物を右手に宿した泉新一という
存在に強い興味を抱きます。
新一から
「なぜ人を殺すんだ…」
「おれの右手はおれの血で生きている!
つまり普通の人間の食い物でだ!」
「おまえらだって人間なんか食料にしなくても
生きられるんじゃないのか!?」
と問いかけられた田村玲子は、その問いに
「たぶん可能だろうな」と答えます。
しかし、さらに下のような答えも新一に返します。
ハエは…
教わりもしないのに飛び方を知っている
クモは教わりもしないのに巣のはり方を知っている
……なぜだ?
わたしが思うに…
ハエもクモもただ「命令」に従っているだけなのだ
地球上の生物はすべてが何かしらの「命令」を
受けているのだと思う…
わたしが人間の脳を奪ったとき
1つの「命令」がきたぞ…
"この「種」を食い殺せ"だ!
生物としての「本能」めいたものを、彼女は地球からの「命令」
と表現しました。
寄生生物たちが宿主と同種の生物を食うのも、
この「命令」からきているのだ、と。
この時点での田村玲子の寄生生物に対する考え方は
このようなものでした。
「田宮良子」から「田村玲子」へ
完璧かと思われた「田宮良子」としての人間社会への溶け込みも、
ささいなことで亀裂が入ります。
高校教師である田宮良子が誰が父親とも知れぬ子を妊娠している
という事実が高校内で問題視されてしまったのです。
こうなってしまった以上、余計な注目を集める前に
田宮良子という身分を放棄するより他はありません。
妊娠を問題視されてほどなく、田宮良子の母親と思われる人物が
訪ねてきましたが、母親はすぐに今の田宮良子が
田宮良子ではない別のなにかであることに気付きます。
完璧に近い寄生生物の擬態を、何の特別な能力を
持っているようにはみえない人間の中年女に
みやぶられたという事実は少なからず驚きでした。
いずれにせよ、早々に「田宮良子」という身分を
捨てなければなりません。
こうして、「田宮良子」は『寄生獣』の物語から退場します。
次に「彼女」が物語に登場するとき、彼女の名前と身分は
別のものになっていました。
寄生生物の未来のために
「田宮良子」が「田村玲子」となって物語に再登場したとき、
彼女は東福山市の寄生生物たちのコミュニティの中にいました。
すでに人間社会への溶け込みが巧妙になっていた寄生生物たちは、
なんと地方自治体をまるまる牛耳って、より自分たちが
暮らしやすいコミュニティを形成するという域にまで
達していました。
東福山市の市長・広川を中心として、寄生生物たちは
社会的・組織的な行動を取れるまでに成長していました。
このコミュニティの形成には、田村玲子の尽力が
すくなからずあったと言います。
コミュニティに所属する大部分の寄生生物たちは、
「食事」のしやすさ等、自身の生命維持のために
都合好しとしてコミュニティに所属しているようでしたが、
田村玲子はそのような単純な視点ではなく、
もっと先のなにかを見据えているようにもみえました。
そして、彼女が生んだ人間の赤ん坊・・・。
彼女自身、この赤ん坊をどう扱うかを決めかねていましたが、
漠然と、寄生生物と人間の関係を考える上で
重要な役割を果たすはずであると、考えたのではないでしょうか。
泉新一への興味
田村玲子にとって、泉新一は非常に興味深い存在でした。
田宮良子だった頃に泉新一と相対したとき、
泉新一のなかにわずかだが混じっているという印象を受けました。
この「混じっている」というのは彼女独特の表現であり、
具体的にどういったことを指すのかは不明ですが、
人間と寄生生物の中間に位置する存在として、
泉新一を強く意識したことは間違いありませんでした。
田村玲子はすでに「島田秀雄」という寄生生物と組んで
泉新一の調査を行っていましたが、島田は先頃、泉新一の
通う高校で大量の人間を殺害し、自身も死亡してしまっていました。
生前の島田からの報告で、泉新一が田宮良子の頃に出会ったときとは
まるで違った印象になっているように思えましたが、
その理由を探るためにはより詳しい調査が必要でした。
田村玲子は倉森という人間の探偵を雇い、泉新一の調査を開始します。
ところが、倉森という探偵は泉新一の調査の過程で
泉新一の右手に宿る寄生生物を目撃してしまいました。
今、ここで寄生生物の存在を知る人間が増えるのは
寄生生物たちにとって不都合となります。
田村玲子は倉森に一方的に調査の終了を告げました。
その際、中途半端な調査終了に納得いかない倉森は
激しく食い下がりましたが、そのときの倉森のあわてぶりは
田村玲子に不思議な印象を与えました。
自然とこみあげてきた"笑い"の感情。
かつて抱いたことのなかった、非常に人間的な感情を
抱くことのできた瞬間でした。
結局、泉新一とは自分自身で直接会うことになります。
たしかに島田や倉森からの報告通り、泉新一は以前に
会ったときの印象とはがらりと変わっていました。
どういう混じり方をしたんだろう・・・
ここでまた彼女特有の"混じる"という表現でもって泉新一の
変化を語っています。
人間のこと寄生生物のこと
田村玲子は母親の身でありながら、たびたび近所の大学にでかけて
講義を聴講していました。
この日聴講していた講義の主題は「動物の利他行動とその疑問点」。
自分たち寄生生物は、生物として何者なのか。
人間たちにとって自分たち寄生生物とは一体なんなのか。
自分たち寄生生物にとって人間とは一体なんなのか。
いずれにせよ、田村玲子は寄生生物と人間の関係について
考える機会を多く持ちました。
そして、そのことで周りの寄生生物(なかま)たちから
浮いた存在にもなっていました。
特に「草野」という寄生生物からは存在自体を危険視され、
闇討ちめいた行為をしかけられるほどでした。
寄生生物は人間に比べ行動・考え方が徹底して合理的かつ単純
であることから一糸乱れぬ組織づくりもたやすいと
考えていた田村玲子にとって、これは意外なことでした。
このことは、寄生生物それぞれがこれほど大きな個体差・個性を
もつに至ったと受け取り、むしろ喜ばしく思いました。
結局、「草野」の闇討ちは荒が多く、田村玲子はあっさりと
これを撃退します。
不思議だ・・・
おまえは不思議だ・・・
この世界は不思議が多い・・・
なぜわたしは・・・
寄生生物(われわれ)はなぜ生まれてきた・・・?
田村玲子の最期
この日、田村玲子はかつて泉新一の調査を依頼した探偵・倉森と対峙していました。
倉森は妻と子を「草野」ら寄生生物に殺されており、
寄生生物への復讐めいた感情から田村玲子の赤ん坊を
連れ去りました。
田村玲子はいろいろと人間のことを研究してきて、
今では倉森の一見不合理な行動もなんとなく理解できました。
ですが、倉森は田村玲子にこう言います。
だがやっぱりあんたにゃわかってねえよ!
人間の何たるか・・・
人の子の親の気持ちってものがな!
いまここでこの子供を殺しても
おまえは悲しんだりはしないだろう
「ああそうか」と思うだけだ
・・・違うか?
倉森が赤ん坊を頭上に振り上げた瞬間、
田村玲子の触手は倉森を貫いていました。
自分の子供を守ろうとほぼ無意識に行った攻撃。
これには自分でも驚きました。
田村玲子はこの日、泉新一を呼び出していました。
寄生生物と人間の中間の存在である泉新一に
いろいろと話しておきたいことがありました。
人間にとっての寄生生物(われわれ)
寄生生物(われわれ)にとっての人間とは
いったい何なのか
そして、出た結論はこうだ
あわせて1つ
寄生生物と人間は1つの家族だ
我々は人間の「子供」なのだ
いままで人間について研究してきたこと、
それに、今さっき倉森に対して自分が行ったことを
加味しての結論でした。
その結論を体現しているかのような貴重な存在
・・・泉新一とミギーの二人には、自分の考えを
聞いておいてもらいたかった。
田村玲子はそう考えました。
・・・そして、田村玲子に最期の時が迫ります。
倉森を追っていた刑事が田村玲子のもとにたどり着きました。
刑事は田村玲子を寄生生物と見抜き、銃撃を開始します。
田村玲子は反撃を行いませんでした。
ただ、泉新一をもとめて銃弾の中を歩きました。
ずうっと・・・考えていた・・・
・・・わたしは何のためにこの世に生まれてきたのかと
1つの疑問が解けるとまた次の・・・
疑問がわいてくる・・・
始まりを求め・・・終わりを求め・・・
考えながら、ただ・・・ずっと歩いていた・・・
どこまで行っても同じかもしれない・・・
歩くのをやめてみるならそれもいい・・・
すべての終わりを告げられても・・・
「ああ、そうか」と思うだけだ
しかし・・・
それでも今日また1つ・・・
疑問の答えが出た・・・
新一・・・
この子供・・・結局使わなかった・・・
何の変哲もない人間の子供だ・・・
人間たちの手で・・・
普通に育ててやってくれ・・・
・・・
この前人間のまねをして・・・
鏡の前で大声で笑ってみた・・・
・・・
なかなか気分が良かったぞ・・・
田村玲子の肉体はそこで力尽き、
寄生生物としての彼女の命もまた尽きました。
最期まで彼女は戦うことも逃げることもせず、
赤ん坊を泉新一に託すことを第一の目的として、
その目的が果たされると安心したように
死んでいきました。
この出来事は泉新一が長く思い煩っていた"胸の穴"を
解消するきっかけになりますが、それはまた別の話・・・。
田村玲子を考える
思えば、田村玲子の存在は最初から異質なものでした。
寄生生物を人間に対する未知の脅威として描いていた序盤から
彼女はすでに生物としての寄生生物は一体なんなのかという考えを
披露していました。
単純に学術的探究心からのみの思索かと思えばそうでもなく、
寄生生物たちの未来のためにコミュニティ形成に尽力するなど
同種のなかまたちのために行動していたふしもあります。
一方で、人間に対する興味・関心も他の寄生生物たち以上にあり、
さまざまな方法で人間を研究していたようです。
なにより人間の子供を実際に育てるという行動が
彼女の思想に大きな影響を与えたのは間違いないと思います。
「これまでに38人殺した」
と、寄生生物にとっては食料でしかない人間の
生命を奪った数をちゃんと数えて覚えているあたり、
人間を単なる食料や実験材料として見ていないことが
うかがえます。
考えに考え抜いて、彼女の出した結論は
寄生生物と人間は1つの家族
でした。
冷血な存在として描かれつづけてきた寄生生物である彼女が
このような人間的暖かみのある結論にたどり着いたのは驚きでした。
思えば、田村玲子は作中、人間的感情が芽生えかけたことが
たびたびありました。
その顕著な例が、倉森の狼狽を思い出し笑いする場面だったり
最期、自らが死ぬことをいとわずに新一に自分の子供を託す場面
だったりするわけですが、
これは寄生生物である彼女が徐々に自分を変化させて
「人間的」になっていっている(進化?)ことを表しています。
『寄生獣』の物語のラストでは、
寄生生物たちはそれぞれの個体差(個性)でもって
さまざまに変化してゆくことが示唆されますが、
「田村玲子」は物語上、最初にあらわされた
寄生生物たちの変化の前兆と言っていいでしょう。
余談ですが、
彼女は泉新一を「人間と寄生生物の中間の存在」として
自分の考えを聞いてほしいと言って、
先に書いたような「人間と寄生生物は家族」というような
考えを新一に伝えました。
これに対比するかのように、『寄生獣』最終回では
人間の殺人鬼・浦上が同じように「人間と寄生生物の中間の存在」
である新一に自分の考えを披露します。
その考えは、「人間はもともととも食いする生き物。寄生生物なんて必要ない」
だったわけで、寄生生物・田村玲子が物語中に提示した考えと
ラストで人間・浦上が提示した考えとが対立するようになっていて
物語にほんのスパイスを一味添えています。
こういった物語の深みの部分においても、
田村玲子の存在は大きなものでした。
死に際もひときわ印象的で、
多くの読者の心になにかしらの影響を与えたことと思います。
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書くこと多くて省いた結果でしょうか。
期待しすぎた分残念。
名作だった
彼女を見ると「なぜ仏門に下らなかった……」と思わずにはいられません。下ったら下ったらで「えー」となりますけど(笑)
あそこ結構ジーンとくるところだと思ってたけど。
持っているようにはみえない人間の中年女に
みやぶられたという事実は少なからず驚きでした。
作中の文そのままのような感じですが、これって、管理人さんの思ったことなんでしょうか?
なんで驚く必要があるのか?と。
”寄生生物・田宮良子”の言う「人間の中年女」は”人間・田宮良子”の母親です。
母親なら特別な能力などなくても見抜けて当然でしょう。
なんで驚く必要があるのか?と。
”寄生生物・田宮良子”の言う「人間の中年女」は”人間・田宮良子”の母親です。
母親なら特別な能力などなくても見抜けて当然でしょう。
いやいや、田宮良子にとってはそれが驚きだったのでしょう。公共の、社交的なコミュニケーションにおいては田宮良子のパラサイト的な性質(無感情、非情動的、合理的)であっても溶け込むことは出来たけども、家族という私的なコミュニティでは誤魔化すことは出来なかった。テレパシーで互いを認識できるパラサイトにとって、また人間をある程度熟知していると思っていた彼女にとって、母親にはっきりと見破られたこと自体が小さなショックだったのです。
なんで驚く必要があるのか? と言ってる時点で、あなたに管理人さんの文章力について言及する資格がないのです。あなたには読解力が欠けているのですから。
相当悔しかったようですね。
管理人さんはこれからも頑張ってください。
それについてひとつひとつ考察があればいいけどただなぞっているだけだし・・・
あと、すごく浅いですね。なんだかとても残念でした。
それも妙な私見が混じってる。大事なシーンが飛ばされてる。
で、そこから何を考察するのか?って答えがない。
「多くの読者の心になにかしらの影響」が何なのかを語って欲しかったね。
それと作品の行間で語られている事だが
田村玲子が気付いたのは子孫を残せない寄生生物を作り出したのは人間であろうと言う事
そこで出た結論が”寄生生物と人間は合わせて一つ”なのだろう