「伏線」とは、物語において後の重要なシーンのために、
そのシーンにちなんだ描写を布石のように前もって
読者に提示しておくことをいいます。
伏線を前提とした重要シーンにおいて、張っておいた伏線が
布石として効果的に機能することを、「伏線を回収する」と
いいます。
壮大な物語の中、複雑に張られた伏線が回収される瞬間は、
読者に何とも言えないカタルシスを与えてくれるものです。
一概には言えませんが、張られた伏線の数が多ければ多いほど、
最初の伏線から伏線が回収されるまでの期間が長ければ長いほど、
伏線回収の瞬間の感慨は深いと思われます。
で す が 、
ときに物語は張られた伏線が回収されずに終了してしまうことがあります。
張った伏線を作者が忘れていたり、
忘れていなくても物語進行の都合上スルーされてしまったり…
まぁ、逆に伏線のつもりじゃなかったところが結果的に伏線になったり
することもありますがそれは稀でしょう。
今回の記事は、そんな感じにいろんな理由で未回収となった伏線を取り上げて
あれこれ考えてみるコーナーにしてみようと思います。
取り上げる未回収伏線は、『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の
仗助の過去話に登場する「リーゼントの少年」についてです。
明らかに意味ありげな過去話であり、のちにこれが伏線として
生きてくる予感が十分にあったにもかかわらず、四部の終了までに
一切触れられず、まさかの完全スルーとなりました。
以下に詳しく書いてみます↓
「リーゼントの少年」概要
時代錯誤のリーゼントヘアがトレードマークの東方仗助。
彼がその髪型にこだわり、それをけなされると烈火のごとくキレるのには
大きな理由がありました。
仗助は4歳の頃、突然原因不明の高熱に倒れ、生死の境をさまよった
ことがありました。
仗助の母親は大雪の夜、高熱でうなされる仗助を車に乗せて
病院へ急いでいましたが、車輪が雪にとられて一向に進まなく
なってしまいました。
そのとき、立ち往生する仗助の母親の車のもとに
学ランを着たリーゼントヘアの少年が現れました。
夜道が暗くて少年の顔はよく見えませんでしたが、
少年の顔には青アザや切り傷があり、今殴り合いをしてきた
とでもいうような風貌でした。
とっさに警戒した仗助の母親ですが、少年は車に高熱を出している
子どもが乗っていることを察すると、着ていた学ランを脱ぎ、
後輪の下へ敷いて車を押し始めたのです。
高熱にうなされながら、仗助は車を押す少年の
リーゼントヘアを見ていました。
4歳の仗助にとって、その少年はあこがれのヒーローとなりました。
どこの誰かはわからないその少年にあこがれ、
仗助は少年と同じ髪型であるリーゼントヘアにしているといいます。
だからこそ、仗助は髪型をけなされると、自分にとってのヒーローである
リーゼントの少年をけなされていると感じ、激しく怒るのだそうです。
…と、リーゼントの少年のエピソードはだいたいこんな感じです。
もう、これはあきらかに後の重要エピソードに生きる伏線だろうと、
このエピソードを読んだ読者の9割方は思ったんじゃないでしょうか。
「リーゼントの少年」はどんな伏線か?
このエピソードを読んで、だいたいの読者がまず真っ先に思うのは
「リーゼントの少年は仗助本人である」
ということでしょう。
似すぎです。仗助に。まぁ、回想シーンなので
「※映像はイメージです」ということなのかもしれませんが。
それにしたって、こうあからさまに容姿が似た人物が
物語に登場したら、読者は同一人物なのではないかと
考えてしまうのが自然です。
特に、この作品は『ジョジョの奇妙な冒険』です。
特殊能力「スタンド」を用いれば、時間を止めてしまうことも
可能なキャラがいるくらいです。
時間を遡って過去に戻ることのできるスタンド能力がこの先登場する
と思ってしまう読者がいても、それは仕方のないことでしょう。
すなわち、このリーゼントの少年は、敵のスタンド能力によって
過去に飛ばされた仗助だ、と。
ほとんどのジョジョ読者がそう思ったことだろうと推察します。
(少年が傷だらけというのも、敵と交戦中かもしくは交戦直後である
様子を描いているようにも見えます)
よって、この「リーゼントの少年」というエピソード自体、
これから先描かれるであろう、「時間を遡る敵との交戦」という
重要なエピソードに向けての伏線なんじゃないか?
いや、きっとそうだろう。そうに違いない。
熱心なジョジョ読者はそう信じて疑わなかったでしょう。
先の第三部最大の敵であるDIOが、「時間を止めるスタンド能力」
だったので、今回の四部最大の敵は「時間を遡るスタンド能力」の
持ち主か?と、ここまで想起した読者もいたかもしれません。
実際、四部最大の敵「吉良吉影」は、物語終盤になって
「時間を遡る能力」を身につけます。
これには、「ついにあの伏線が回収されるときが来た!」と
興奮した読者もいたことでしょう。
と こ ろ が 、
仗助が過去へ行くことなんて一切なく、吉良吉影との決着は
着いてしまったのでした。
伏線回収の瞬間を待ちわびていた読者は一斉にズコー!となったかもしれません。
そして、もちろんエンディングでもこの伏線は回収されることなく、
ジョジョの奇妙な冒険 第四部は物語の幕を閉じることとなります。
「リーゼントの少年」は結局なんだったのか?
作者である荒木先生は、この少年が未来の仗助であることを
明確に否定しているようです。
まぁ、たしかに仗助の心の中にあこがれのヒーローが宿ったエピソード
としてだけみても物語上は成立しています。
それ以上の意味はないと言われても、理解はできます。
できますが…
どーしても、エピソードとしての違和感はぬぐいきれないというか。
ただの過去話にしては、描写が細かすぎるんですね。
少年の顔に青アザやら切り傷があったっていう描写があからさまに
交戦を想起させますし、ただ仗助の心のヒーローの話をするだけなら
そんなことわざわざ描写しなくてもいいはずです。
それに、このエピソードを語っているのが仗助から話を又聞きした康一くん
というところもクセモノです。
康一くんが語る前に
「この話は"今思い返してみれば"というぼくの推測が入っているからね」
とかいちいち断っているのにもひっかかりを覚えます。
これは極端な話ですが、仗助が「康一には話してなかったけど実はこういうこともあった」
とか言って、この過去話に続きがあった的展開に持って行くことも可能なわけですからね。
やっぱりどうしても、「伏線」としてしか読めないエピソードなのです。
このエピソードが週刊少年ジャンプに描かれてから、もう15年以上も経ちますが、
僕はいまだにこの伏線がいつか回収されることを信じています。
というのも、現在、荒木先生が連載しているジョジョの奇妙な冒険 第八部にあたる
『ジョジョリオン』が、四部と同じ「杜王町」を舞台としているのです。
パラレルワールドで四部の杜王町とは違う住人が住んでいるようですが、
第七部の敵で「パラレルワールド間を自由に行き来できるスタンド能力」が
登場しているので、第四部の杜王町を物語に登場させることは不可能ではないはずです。
これは、もう十数年越しにこの伏線が回収される瞬間を期待するしか
ないじゃないですか!
荒木先生は「リーゼントの少年=未来の仗助」説を否定しているので
伏線もクソもないじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、
ちょっと待ってください。
ある偉大な先生がこう言っていました。
おとはなウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです。
つまり、大人な荒木先生がリーゼントの少年は未来の仗助ではないと否定したことを
間違いと認め、『ジョジョリオン』において間違いを正すために
この伏線を盛大に回収してくれることも十分に考えられるのです。
荒木先生!
自分、信じて待ってますから!!
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「ツェペリ男爵」の事もあるので、可能性はありますね。
ああそんなのあったね(笑)と言ったそうですし
ちなみに「ああ、そんなのあったね」発言も全くのデマですよ
なんの関係もない子供を助けた少年が自分を助けただけってのは。
ジョルノが憧れたギャングスタと同じ扱いで良いと思うとです。
ここのコメや拍手コメから伺うに、
リーゼントの少年は「なんの関係もない不良」だからこそ
意味があるという方が多かったです。
仗助の生き方の手本となっている人物なので
仗助本人であっては意味がないというごもっともなお話でした。
たしかにそうなんだなー。
乙一 著の『The Book』の話になりますが、
このリーゼントの少年に触れている箇所があり、
「そのリーゼントの少年は本当は存在しなかったんじゃないか?」
と問われた仗助がそれについて答える場面が印象的でした。
小さな頃からあこがれていた存在が実は存在しなかったと
思い知らされたとき、仗助のアイデンティティはどうなってしまうのか。
それを考えると、リーゼントの少年が実は仗助自身だった
という展開も面白そうなんですけどね。
第4部はいまだに細かい部分でこういう
熱い議論ができて楽しいです。
いつまでも語り継ぐことができる作品ということで、
ジョジョ4部は本当に名作なんだと思い知らされます。