2021年7月に初演されたアレックス・オリエのプロダクションが3年振りに再演された。指揮はコロナ禍で外人指揮者の欠場が相次いだ時期に日本に残留して強い助っ人として活躍したことが思い出されるガエターノ・スピノーザだ。実は本舞台初演後に行われた「高校生のための公演」で、指揮沼尻竜典、カルメン山下牧子、ドン・ホセ村上公太、エスカミーリオ 須藤慎吾、ミカエラ石橋栄実という顔ぶれで観ていたプロダクションだ。しかし今回はコロナ禍で動きに制限の多かった初演時とは別の舞台と考えたほうが良いだろう。設定は現代日本で、カルメンは来日したロックバンドの人気歌手、エスカミーリオはその警護にあたる警察官の一人。そしてこのバンドは実は密輸にも加担しているという話になる。決して読み替えではなく脚本の要点はきちんと踏襲した分かり易く退屈しないとても秀でたプロダクションだった。歌手も皆良く歌い演じて相対的にとても楽しい舞台によく仕上がっていた。外題役のサマンサ・ハンキーは美声で容姿も悪くないのだが、ロールデビューのせいか今ひとつ悪女になりきれずカルメンとして決まらずに物足りなさが残った。エスカミーリョのルーカス・ゴリンスキーは堂々とした美声を聴かせた。ドン・ホセのアタラ・アヤンは決して美声というわけではないが伸びもあり表現も豊かで説得力ある歌唱だった。私としてはこの日一番の出来はミカエラの伊藤晴だったと感じた。硬質で良く通る歌唱を駆使した楚々としつつも芯に強さを秘めた役作りは手紙をホセに渡す場面と母親が重篤な病であることを知らせる場面で涙を誘った。伊藤は2020年8月の藤原歌劇団公演でも優しくも強いミカエラを歌い演じたが、今回はその方向性の完成版と言ってもよいだろう。その他の日本勢はスニガに田中大揮、モラレスに森口賢二、ダンカイロに成田博之、レメンダードに糸賀修平、フラスキータに冨平安希子、メルセデスに十合翔子という顔ぶれで、とりわけ女声陣は主役を食う程の充実した歌唱だったので五重唱や「カルタの歌」はとても聞き映えがした。この劇場の合唱はいつも充実しているが、今回はTOKYO FM少年合唱団をも含めてとても美しく輝かしかった。スピノーザの決して手抜きのない緩急自在のピットも極めて効果的で、この指揮者のオペラへの適性を強く感じさせた。
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