このところオペラ畑で大活躍のフランスの指揮者ピエール・デュムソーを迎えたロシア物をフランス物2曲で挟んだプログラムだ。1曲目は珍しいアルベール・ルーセルの交響的断章〈蜘蛛の饗宴〉作品17。あまり馴染みのない作曲家なので交響曲しか聞いた事がなかったが、これはその即物的な印象とは随分に違うとても色彩的な音楽だ。ここではまず細密画のようなオーケストレーションを明快に描き分けてゆくデュムソーの手腕が見事で、初っ端から紀尾井の瑞々しい弦と秀でた木管アンサンブルからフランスの香が漂った。夜の帷(とばり)が降りる昆虫達の行き交う庭にポツンと一人落とされたような幻想的な雰囲気が醸出され、筆致の描写性も十二分に引き出された名演だった。続いて昨年2月のショスタコのコンチェルトに続いて2度目の登場になるニコラ・アルトシュテットのチェロが加り、セルゲイ・プロコフィエフの交響的協奏曲ホ短調作品125。まるでチェロが体の一部でもあるかのような極めて自然な弾き方なので、縦横無尽の運弓ながら音楽に微塵の無理も力みもなく、洞々と流れ出る音楽に身を託しているうちに全てが終わった。三楽章の単純な協奏曲形式ながら中はかなり複雑な構成だ。しかし抒情性や皮肉や激しさがないまぜになった不思議な魅力を持つ曲だ。オケの伴奏とチェロ独奏が混然一体と調和した見事な演奏がその魅力を引き出したということだろう。ソロ・アンコールはバッハの無伴奏組曲第1番よりサラバンドがシットリと奏され、熱演との落差がまた堪らなく感じられた。最後はビゼーの劇付随音楽〈アルルの女〉第1組曲&第2組曲。これは熱量の極めて多い演奏で、聞いていて思い出したのは、もう40年も前に上野で聞いたフランスの名匠ジャン=バティスト・マリと東フィルの爆演だ。燦々と降り注ぐ南フランスの夏の太陽のようなラテン的な明るさと活力に満ちたとても隈取の濃い演奏。それがドーデの悲劇を題材としたビゼーの曲にベストマッチする。もちろん当時の日本のオケと今のオケでは技量が格段に違うので、こちらはどんなに開放的にオケを鳴らしても美しさとスタイルを保って「爆演」にならないところは流石である。大歓声と大きな拍手に予定外のアンコールは再度「ファランドール」からフィナーレ。さすがに今度は一寸ハメを外し気味の演奏ではあったが、それもご愛嬌というところだろう。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新コメント
ブックマーク
カレンダー
最新記事
- 東京シティ・フィル第375回定期(1月17日)
- 都響第1040回定期(1月14日)
- ウイーン・フィル・ニューイヤーコンサート
- 新国「ウイリアム・テル」(11月26日)
- 東京シティ・フィル第79回ティアラ江東定期(11月23日)
- 藤原歌劇団「ピーア・デ・トロメイ」(11月22日)
- 東響オペラシティシリーズ第142回(11月15日)
- NISSAY OPERA 「連隊の娘」(11月10日)
- 八ヶ岳高原サロンコンサート(11月1日)
- びわ湖ホール声楽アンサンブル第15回東京公演(10月14日)
- 東響第97回川崎定期(10月13日)
- 新国「夢遊病の女」(10月9日)
- 東京シティ・フィル第373回定期(10月3日)
- 東響オペラシティシーリーズ第141回(9月28日)
- 紀尾井ホール室内管第141回定期(9月20日)
- 東フィル第1004回オーチャード定期(9月15日)
- 東京シティ・フィル第372定期(9月6日)
- 第44回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル (8月28日〜30日)
- ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2024(8月17日〜21日)
- 読響フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024公演(7月31日)