この秋は私にとってベルカントオペラ満載の嬉しいシーズン開幕だ。新国の「夢遊病の女」に続いて、今日は日生劇場のドニゼッティ「連隊の娘」である。今回の粟國淳演出、イタロ・グラッシ美術、武田久美子衣装のプロダクションは、まるでおもちゃ箱をヒックリ返して出てきた人形達によって繰り広げられるファンタジーのような思いっきりキュートでポップなもの。世界各所で戦火が絶えないこの時代、リアルな軍隊や制服を一切登場させないこのアイデアは観る者に優しく、同時にとても効果的だったと思う。これにより連隊の中で一人の娘が兵士達によって育てられるといういささか現実離れした筋書きもすんなりと受け入れられる夢の中の物語と化し、観衆はストーリーに内在するほのかなペーソスと喜びを素直に受け入れられたのではないか。そうした一見ドニゼッティの古典的な音楽には場違いに感じられた設も、躍動感に満ちた舞台を観ているうちに何故か目に馴染んできたのは見事に仕組まれた粟國マジックだったのだろう。原田慶太郎+読売日響のピットは最初はいささか力み過ぎで、まるで交響曲を聞くように響きブッファの楽しさとは程遠いものがあったが、歌手たちの良い歌につられて次第に軽快で心楽しいものになっていった。今回がオペラデビューだというマリー役熊木夕茉の綺麗に良く伸びて繊細さも併せ持つ爽やか歌唱と演技や、トニオ役の小堀勇介の無理なく美しく伸びる高音は素晴らしかったし、シェルピス役町英和と侯爵夫人役鳥木弥生の性格的歌唱も良いアクセントとして光っていた。そして忘れてはならなのは兵士役のカレッジ・シンガースで、彼らも歌役者としても大活躍して舞台を大いに盛り上げた。今回あえてオペラ・コミックスタイルのフランス語上演にしたのは誠に快挙だったと言って良いであろう。しかし台詞の多い舞台は日本人歌手にとってはかなり過酷だったと思う。決して本場と比べることは出来ないが皆健闘していた。その中では小堀が流麗さでは群を抜いていた。小堀は一幕最後の有名なアリアでハイCを見事に輝かしく連発し会場を大いに沸かした。そしてこの日は指揮者に促されてアンコールのサービスまであったのには驚いた。一方聞かせどころの終幕のしっとりとしたロマンスではいささか安定を欠いてしまったのはとても残念だった。(アンコールで喉を消耗してしまったのではないかな)とは言えそんなことは些細なことで、全体として心楽しくちょっとしみじみした大人のファンタジーとしても良く纏まった秀逸な舞台だったと言えるだろう。この舞台は同時に「日生劇場オペラ教室」として中高生達にも公開されるのだが、こんな上質な舞台でオペラの初体験をすることができる生徒達は幸せである。彼らのうちの一人でも多くが「劇場」を支える将来のオペラファンになってくれることを期待したい。
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