ドイツを中心に活躍する台湾出身のTung-Chie Chuangを指揮台に迎え、英国の若手ヴィオリストDimothy Ridoutをフューチャーした初秋のマチネである。スターターはバッハの管弦楽組曲第3番より「アリア」だ。今回はグスタフ・マーラー編曲のヴァージョンで演奏された。なのでさぞや色んな音がするのだろうと耳を澄ましたが、ほぼ原曲に忠実で、イントネーションが多少ロマンティックになっているくらいの差異しか私には聞き取れなかた。小編成で弦はノンヴィブラート奏法。なのでその清澄な音色とマーラーが加えた若干のロマンティックな味わいのミックスが不思議な雰囲気を醸し出していた。続くウォルトンのヴィオラ協奏曲はティモシー・リダウトの独壇場だった。3楽章構成で、第2楽章は短いスケルツオではあるものの、両端楽章はオーケストラの強奏とビオラを交えた繊細な部分の繰り返しで進むというような形式の聞きやすい曲だった。リダウトが名器ペレグリーノ・ディザーネットから繰り出す美音と絶妙な語り口、それとツアンが東響から引き出す俊烈な響きが曲の良さを鮮やかに印象づけた名演だったと言って良いだろう。盛大な拍手にこの曲の初演者ヒンデミットのビオラ・ソナタ第1番から超絶技巧の第4楽章とバッハの無伴奏パルティータ2番からサラバンドがソロアンコールされた。そしてメインはブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68だったが、この演奏には私は共感し難かった。ツアンは比較的早いテンポで東響を駆り立て明るく良く鳴らすのだが、音の整理がついておらずブラームスの重層的なオーケストレーションがただ騒々しいだけになってしまっているように私には聞こえた。さらに全体的な構成感といったものも不足しているように聞いた。それでもその元気に触発されてか終演後は大きな拍手が送られていたので、これは私だけの極めて個人的な印象なのかもしれない。実は私にとってこの指揮者を聞くのは2回目だったようで、この印象記を見返したところ2018年10月に東京シティ・フィルで聞いている。そこには「ハイドンの交響曲第102番変ロ長調は、若さ溢れる溌剌とした音楽で、シティフィルの弦が爽やかに響いた。しかしウィーン古典派の様式感といったことには意が注がれておらず、落ちついた歩みと起承転結がない。結果、元気だけが目立って騒々しい印象が先立ってしまった音楽になってしまった。」とあった。結局私と反りが合わないということなのかも知れない。
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