1993年に鎌倉芸術館の開館記念委託作品として制作初演された三木稔の作品で台本はなかにし礼。今回は新鋭生田みゆき演出によるニュープロダクションだ。(当初は三浦安浩がクレジットされていたが一身上の都合とやらで変更された) 指揮は2019年3月に行われた本協会による再演でも指揮を執り、西洋物でも23年9月藤原歌劇団の「二人のフォスカリ」等で鮮やかな仕切りを見せている田中祐子。源義経と静の悲恋を描いたなかにし礼の脚本は流れが良く、さすがに歌詞もよく聞き取れて全くストレスがない。(今回は英語の字幕付き)三木の音楽は邦楽器や打楽器も多用したものだが、それらはオーケストラの中に自然に落とし込まれて違和感なく効果をあげ、華やかな群衆場面もアリアも盛り込まれた立派なグランドオペラ風作品に仕上がっている。当日の歌手陣は皆自然に歌い自然に演技できる歌役者が揃ったが、歌も容姿も美しい設楽和子の「静」には迫真の演技も相まって思わず感情移入せざるを得なかった。磯の禅師の城守も存在感もドラマを盛り立て、政子の家田紀子の性格役者振りも舞台を引き締めた。このように概して女声側に目立った歌唱が多かったがそれは書き方のせいかもしれない。その他配役は義経に海道弘昭、頼朝に村松常夫、弁慶に杉尾真吾、大姫に別府美紗子、梶原景時に角田和弘等々。とりわけ印象に残った場面は第三幕第四場の静の自死の場面だ。ここでは沖縄風の五音階の美しいアリアと琉球風の波紋様の背景が不思議な明るさを醸し出し悲恋の結末としての「愛の死」を美しく描き切った。(為朝の沖縄伝説は知られているが、義経とはどういう関係なのかは不明)そして最後は声明が流れて幕となる。約3時間の大作ではあるが全く退屈することなく見通せたのは構成の上手さと、舞台の美しさと、そして当日の秀でた演奏のおかげだろう。名作と巡り合って「創作オペラ」の持つ力と可能性をあらためて感じた次第。
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