会場に入ると張り紙があってコンマスの戸澤哲夫がコロナの濃厚接触者になってしまい、急遽客員コンマスの新井英治が代役を務めるとのこと。身近に迫り来るコロナを身をもって感じる幕開けとなった。当日の曲目はまさに名曲揃い踏み!指揮は常任指揮者の高関健、そしてソリストに弱冠17歳の新進気鋭北村陽を迎えた。一曲目はドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調だったが、完璧な技巧と若者の特権である純粋な感性から手垢に一切まみれない美しい音楽が溢れ出た。音符を音にするのが楽しくて仕方がないという様な演奏振りは、聞いているこちらをも幸せにしてくれる。高関はプレトークで、幾度か練習を重ねてきてタイミングを測って来たが、ゲネプロになってまた違った音楽になって慌てたと語っていたが、慎重にシッカリとサポートしていた。盛大な拍手にアンコールはバッハの無伴奏組曲第6番からの一曲。休憩を挟んでメインはブラームスの交響曲第1番ハ短調。これは一点一画をも疎かにしない丁寧な鳴らし方で、実に高関らしい目のつんだ堅固な演奏だった。作曲家の本質に正面から迫るようなこういう姿勢は誠に好もしい。しかしそれで感動を導くには測りしれない学究的検討の積み重ねが必要であろう。そして高関はそれを成し遂げることの出来る数少ない指揮者ではないか。そうした指揮に頻繁に出会うことができる機会を持つ我々は誠に幸せだと心から感じる。シティ・フィルはこの日も快調で、冴え冴えとした見事なホルン・ソロ、自発的な木管の掛け合い、重厚なトロンボーン、そしてスタイリッシュなティンパニと聞きどころ満載だった。弦も実に流麗に鳴り響き、充実の極みを尽くした名演となった。
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