前回の続き。
救急患者が室料差額を払う必要がないと知ったときの経緯を話そうと思う。
ある日の夕方、病院当直事務の勤務開始で、入退院事務に引き継ぎに向かった。引き継ぎの中で、1つおかしな話がなされた。
退院会計に来るある人物がいる。その人物は個室入院していたにも関わらず、室料差額は払う意志がないと言っている。とにかく普通に支払ってもらってくれ、と。
時間外の当直事務でも数件退院会計を行っていたのだが、退院会計で金額の説明を求められたり、トラブルになることはなかったので、あまり気にもしていなかったのだ。
勤務開始時は戦争状態であり、てんてこ舞いだ。そのような状況の中で、スタッフの一人が僕に話しかけてきた。
「あちらの患者さんが退院会計払わないって言ってるんですよ」
僕は引き継がれた件を忘れていたので、なんとなく話を聞くことになった。ちなみに僕がリーダーだった。
その患者の方に行って見ると、「僕は厚労省の役人なんだけれど、事前に室料差額を請求する要件を満たしていないことは伝えていたはずなんだけれど」と、冷静に話をしてきた。
僕は「あ、引き継がれた件のか?」と思いながら、「実は部署が違うので、申し訳ないですが、ご説明いただけますか?」と聞いてみた。
役人は室料差額に関する通達を見せてきた。その書類を見せながら、救急で入院した場合、室料差額は発生しないとの記述がなされていた。厚労省の通達なので、法律と同等である。
僕「これ法的な規定ってことですよね?」
患者「もちろん、そうです」
僕「こんな規定は知らなかったです」
患者「それは勉強不足になります」
僕「(偉そうにと思いながら)それは申し訳ありません。ただ僕たちは病院事務ではなく、派遣で夜間の当直事務をしている身なので、そういう知識がなくてもできる業務になっています。入退院の会計に関しては、金銭授受のみに限定されているので、業務として行っています」
患者「それでは知らなくても仕方がないですねえ。どうしましょうか?」
そこで、後日外来の際に入退院事務に立ち寄って、支払いしていただければいいと僕の判断で答えておいた。その日は支払わなくてもいいと判断したのだが、そういうケースは初めてであったと記憶している。先方も僕の立場を理解したとして、納得してくれた。
翌朝、入退院事務にこの事情を引き継いだ。なんだか不満気であったが、通達のコピーを手にして説明したので、法的な問題であるし、当直事務が対処すべきことではない旨を“やわらかく”説明しておいた。
仲のいい入退院事務のスタッフに後日聞いたところ、「室料差額はなし」で処理されたそうだ。さすがに担当省庁の役人が通達文書まで持ってきたのでは、病院側も“シラッと”室料差額を払ってもらうことはできなかったというわけだ。
それにしても、色々と理由はつけるのだろうが、病院は“シラッと”法的根拠の欠ける金を請求しているわけで、公正ではない。加えて、かの役人もこの病院の問題に対処するのではなく、そのような知識を知っていることによって、自分だけは不利益を被ることはなかったのもまた公正とは言い難い。ちなみに厚労省の役人だと、その身分を盾にしているようにも感じた。まあ、これは権力嫌いの僕の思い込みだろうかな。
ちなみにこの病院は誰でも知っている都心にある大学病院だ。
では僕はどうか。ここからが大変だったのだが、長くなるので、気が向けばということで。いつか。