よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

「疲労」の正体とその対策

2019-07-30 13:55:57 | 健康・病気
日夜のハードワーク、休日の家族サービスなどで日頃から「疲労」を感じている皆様は多いと思います。この「疲労」に対して、寝る、栄養ドリンクを飲むなど人それぞれの方法で、解消に努めておられることと思います。
今回は、「疲労」に関する最新の知見をご紹介します。

ひと昔前まで、「疲労」は、筋肉を使った後に代謝されて生じる乳酸が筋肉の溜まることが原因と考えられていました。しかし現在では、乳酸は悪者ではなく、むしろ筋肉のパフォーマンスを上げる作用もあり、「疲労」の原因ではないことが証明されています。
その代わりに、活性酸素が注目されています。活性酸素は、呼吸によって体内に吸収した酸素が細胞で使われる際に発生し、外敵を攻撃するのに役に立つ一方、過剰に発生すると自分の細胞や遺伝子などを傷つけます。これは「酸化ストレス」ともいわれ、細胞が酸化ストレスにさらされることにより本来の機能を維持できなくなることが、「疲労」の本体と考えられています。そして、酸化ストレスの影響をもっとも受けるのが「脳」です。

運動すると、呼吸・循環・体温などを瞬時に調節する必要がでてきます。これらを調節するのが自律神経であり、自律神経の中枢である脳の視床下部や前帯状回の神経細胞がフル回転します。その結果、脳細胞で活性酸素が発生し、酸化ストレスにより自律神経機能が十分働くことができなくなり、パフォーマンスが落ちます。これを「疲労」として自覚します。すなわち、脳疲労が「疲労」の正体と考えられるのです。さらに、神経細胞はほとんど新生せず、酸化ストレスの影響が蓄積しやすいことも原因です。

「疲労」は、医学的には「痛み」、「発熱」とならんで生体アラームの一つと考えられています。つまり、これ以上運動や仕事を続けると体に害を及ぼすという警報の役割です。疲労が蓄積し慢性化すると生命の危機(過労死)の原因になります。
脳疲労のサインとして、「飽きる」、「疲れる」、「眠くなる」があります。さらに進むと視野狭窄をきたし、脳への情報を制限するようになります。車の運転で、こまめに休息を入れる必要があるのもそのためです。

一方、「疲労とは、筋肉と神経の使い過ぎや不具合によって体の機能障害が発生している状態」と定義し、筋肉だけでなく神経のコンディションの悪さが疲れを引き起こすと考える研究者もいます。神経には、自律神経と手足の運動・知覚・感覚などを扱う末梢神経があります。末梢神経も脳という中枢神経により管理されているため、自律神経中枢と同様、「脳」が疲労の原因と捉えることができます。

ここで、「脳」からの指令が全身に正確に伝達されるためには、体に歪みがないことが重要です。つまり、体に歪みがあると神経伝達が上手くいかず、疲れやすい体ということができます。
体の歪みを減らすには、体幹と脊柱を鍛えることが重要です。そのために、有効な手段として、腹圧呼吸があります。以前、口呼吸(胸式呼吸)ではなく鼻呼吸(腹式呼吸)が重要であると話をしたことがあります。腹式呼吸は、呼気時にお腹をへこますのですが、腹圧呼吸は、呼気時にお腹に力を入れお腹周りを固くしてへこまないようにします。腹圧呼吸を身に着けることができると、体の圧力が高まり、その圧力に支えられる形で体の中心が安定し、疲れにくい体になると考えられるのです。この呼吸法は、スポーツ医学で研究され、現在一流アスリート達が実践しています。もちろん一般の人にも有効ですが、腹圧を上昇させるため、子宮脱や膀胱脱など骨盤底筋が弱っている方は厳禁です。

疲労の回復手段として、質の良い睡眠は重要です。睡眠不足だけでなく、睡眠時無呼吸はもちろんのこと「いびき」ですら、疲労回復の障害になると考えられています。昨今の猛暑では、一晩中エアコンを効かして快適な室温を保つことも必要でしょう。
次に、食事です。栄養不足の時代には、疲れた時には、ウナギ、スッポンなど精の付く食材が有名でした。最近注目されている疲労回復物質は、イミダペプチドです。これは、鳥の胸肉やまぐろ・かつおの尾付近に多く含まれており、抗酸化作用で脳疲労を軽減することが実証されています。梅干し、レモンなどに含まれているクエン酸も、エネルギー効率を改善し抗疲労効果を発揮します。その他、L-カルニチンを含む赤身肉、ビタミン類の豊富な野菜・果物もよいですが、十分な水分補給も忘れないでください。逆に、菓子、ジュース、酒、コーヒー、栄養ドリンクは、疲労回復の面からは薦められません。
さらに、温めのお湯での下半身浴、紫外線を避ける、自然環境にある「ゆらぎ」に身をまかせる、心地よい香り、幸せを感じる(癒し)など自分にあった疲労回復法を見つけて生活に取り入れることも有効です。
 脳疲労を軽減させるために、「脳全体をバランスよく使い、負担を分担する」ことが注目されています。この一つとして、「ワーキングメモリ」を鍛えることがあります。詳細は省きますが、感情を強く意識しながら記憶する、知覚・記憶・思考など自らの認知をより高い位置から俯瞰し、観察するメタ認知機能を高めるなどがあります。


参考文献:集英社新書『すべての疲労は脳が原因』、朝日新書『隠れ疲労』 ともに著者 梶本修身
サンマーク出版『スタンフォード式 疲れない体』著者 山田知生