「老化」して「死」を迎える我々ヒトも、その進行スピードは個々により様々です。
デイビット・A・シンクレアはその著書の中で、「老化」とは遺伝子から読み出される情報の喪失にほかならない。その読み出され方がおかしくなることこそが、さまざまな老化の症状を引き起こすたった1つの原因であると語っています。そして、「老化」は宿命ではなく、「病気」であり治療可能と考えています。
では、「老化」を治療し、若い頃と同じように元気で生き寿命を延ばすにはどうしたらいいのでしょうか。
「老化」の原因であるDNA損傷に対して、DNA修復を調節しているのが長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子です。サーチュイン遺伝子は、ミトコンドリアを増やし、老廃物を除去し、細胞を若返らせる作用、細胞を傷つける活性酸素の抑制作用、病原体のウイルスを撃退する免疫抗体の活性化作用など、さまざまな老化を防止する機能があるとされます。このサーチュイン遺伝子を活性化することが老化を抑え長寿を実現するカギになります。
サーチュイン遺伝子を活性化するには、①カロリー制限、②断食、③蛋白質制限、④適切なストレス(運動、寒冷刺激など)が知られています。
すなわち、摂取カロリーが減る(空腹、飢餓)や体にある程度のストレスがかかることにより、防御反応として、細胞レベルの損傷を防ぐためにDNA修復機能が活性化すると考えられています。これによりサーチュイン遺伝子のスイッチが入り、これが老化を遅らせることになります。
具体的には、摂取カロリーを30%制限する、一日一食あるいは二食とする、間欠的な断食、野菜や豆類や全粒の穀物を多く摂り、肉や乳製品や砂糖を控える、高強度インターバルトレーニング、サウナと水風呂に交互に入るなどがあります。
薬あるいはサプリにより「老化」を治療することはできないでしょうか。
ミトコンドリアでのエネルギー産生の補酵素の一つであるNAD(ニコチナミド・アデニン・ジヌクレオチド)が、全身のさまざまな臓器・組織において、加齢とともに低下してしまうこと知られています。NADは、サーチュイン活性を高めることにも重要な酵素であり、「抗老化ビタミン」と呼ばれています。体内ではニコチナミドを出発点としてNR(ニコチンアミドリボシド)がNMN(ニコチナミド・モノヌクレオチド)に変換され、それがNADに変換されるため、NRやNMNをサプリとして補うことも老化防止に効果があると言われています(NADを直接摂っても消化管で分解されてしまう)。
メトホルミンという糖尿病治療薬は、ミトコンドリアでのエネルギー産生を遅らせる働きがあります。すると、エネルギー産生を制御するAMPKと呼ばれる酵素が活性化し、ミトコンドリア機能を回復させる働きをします。メトホルミンはサーチュイン活性を高める作用、がん細胞の代謝を抑える作用、ミトコンドリア増加作用、機能低下したタンパク質除去作用が明らかになっており、老化防止には有効と考えられています。
さらに、細胞の栄養状態を制御するmTORと呼ばれるタンパク質リン酸化酵素を抑制すると、タンパク合成が低下しサーチュイン遺伝子を活性化することも期待されています。
赤ワインに含まれるレスベラトロールというポリフェノールも、マウスでの実験でサーチュイン遺伝子を活性化するとして注目を集めましたが、ヒトで同じ量を摂取するには、毎日赤ワイン1000杯飲む必要があるそうです。
さらに、昔から老化説としてフリーラジカル説があります。確かに、フリーラジカルはDNAを傷つけますが、実験的にフリーラジカルを増加させたマウスでも老化のスピードに変化は認めず、抗酸化剤を投与しても寿命を延ばす効果はなかったそうです。
以上、「老化」に関する最新の知見をご紹介いたしました。
「老化」が治療できるというのは革新的な発想ですが、将来はヒトの寿命限界と考えられている120歳を超えて150歳まで達することも夢ではないかもしれません。
そのために現時点で実践すべき対策もわかりました。カロリー制限、断食、運動、適度なストレスなどは、医者の指導のもとで適切に行えば比較的簡単に取り入れることができるかもしれません。また動物性蛋白質の摂り過ぎは良くないことも頭に入れておく必要がありそうです。その他、ビタミンDや食物線維の摂取、適切な睡眠、大気汚染を避けるなども健康長寿には効果的です。
アンチエイジングに関して様々なサプリも発売されています。今回紹介したNMNは、効果が実証されつつありますが、かなり高価です。また効果が怪しい粗悪品サプリも溢れています。やはり補助的に使うのがよいと思います。
生命に必然である「死」を迎えるまで、少しでも「老化」を遅らせ元気に生活し、人生を謳歌したいものです。
参考文献:デイビット・A・シンクレア『LIFESPAN 老いなき世界』
樂木宏美『「100年ライフ」のサイエンス』
デイビット・A・シンクレアはその著書の中で、「老化」とは遺伝子から読み出される情報の喪失にほかならない。その読み出され方がおかしくなることこそが、さまざまな老化の症状を引き起こすたった1つの原因であると語っています。そして、「老化」は宿命ではなく、「病気」であり治療可能と考えています。
では、「老化」を治療し、若い頃と同じように元気で生き寿命を延ばすにはどうしたらいいのでしょうか。
「老化」の原因であるDNA損傷に対して、DNA修復を調節しているのが長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子です。サーチュイン遺伝子は、ミトコンドリアを増やし、老廃物を除去し、細胞を若返らせる作用、細胞を傷つける活性酸素の抑制作用、病原体のウイルスを撃退する免疫抗体の活性化作用など、さまざまな老化を防止する機能があるとされます。このサーチュイン遺伝子を活性化することが老化を抑え長寿を実現するカギになります。
サーチュイン遺伝子を活性化するには、①カロリー制限、②断食、③蛋白質制限、④適切なストレス(運動、寒冷刺激など)が知られています。
すなわち、摂取カロリーが減る(空腹、飢餓)や体にある程度のストレスがかかることにより、防御反応として、細胞レベルの損傷を防ぐためにDNA修復機能が活性化すると考えられています。これによりサーチュイン遺伝子のスイッチが入り、これが老化を遅らせることになります。
具体的には、摂取カロリーを30%制限する、一日一食あるいは二食とする、間欠的な断食、野菜や豆類や全粒の穀物を多く摂り、肉や乳製品や砂糖を控える、高強度インターバルトレーニング、サウナと水風呂に交互に入るなどがあります。
薬あるいはサプリにより「老化」を治療することはできないでしょうか。
ミトコンドリアでのエネルギー産生の補酵素の一つであるNAD(ニコチナミド・アデニン・ジヌクレオチド)が、全身のさまざまな臓器・組織において、加齢とともに低下してしまうこと知られています。NADは、サーチュイン活性を高めることにも重要な酵素であり、「抗老化ビタミン」と呼ばれています。体内ではニコチナミドを出発点としてNR(ニコチンアミドリボシド)がNMN(ニコチナミド・モノヌクレオチド)に変換され、それがNADに変換されるため、NRやNMNをサプリとして補うことも老化防止に効果があると言われています(NADを直接摂っても消化管で分解されてしまう)。
メトホルミンという糖尿病治療薬は、ミトコンドリアでのエネルギー産生を遅らせる働きがあります。すると、エネルギー産生を制御するAMPKと呼ばれる酵素が活性化し、ミトコンドリア機能を回復させる働きをします。メトホルミンはサーチュイン活性を高める作用、がん細胞の代謝を抑える作用、ミトコンドリア増加作用、機能低下したタンパク質除去作用が明らかになっており、老化防止には有効と考えられています。
さらに、細胞の栄養状態を制御するmTORと呼ばれるタンパク質リン酸化酵素を抑制すると、タンパク合成が低下しサーチュイン遺伝子を活性化することも期待されています。
赤ワインに含まれるレスベラトロールというポリフェノールも、マウスでの実験でサーチュイン遺伝子を活性化するとして注目を集めましたが、ヒトで同じ量を摂取するには、毎日赤ワイン1000杯飲む必要があるそうです。
さらに、昔から老化説としてフリーラジカル説があります。確かに、フリーラジカルはDNAを傷つけますが、実験的にフリーラジカルを増加させたマウスでも老化のスピードに変化は認めず、抗酸化剤を投与しても寿命を延ばす効果はなかったそうです。
以上、「老化」に関する最新の知見をご紹介いたしました。
「老化」が治療できるというのは革新的な発想ですが、将来はヒトの寿命限界と考えられている120歳を超えて150歳まで達することも夢ではないかもしれません。
そのために現時点で実践すべき対策もわかりました。カロリー制限、断食、運動、適度なストレスなどは、医者の指導のもとで適切に行えば比較的簡単に取り入れることができるかもしれません。また動物性蛋白質の摂り過ぎは良くないことも頭に入れておく必要がありそうです。その他、ビタミンDや食物線維の摂取、適切な睡眠、大気汚染を避けるなども健康長寿には効果的です。
アンチエイジングに関して様々なサプリも発売されています。今回紹介したNMNは、効果が実証されつつありますが、かなり高価です。また効果が怪しい粗悪品サプリも溢れています。やはり補助的に使うのがよいと思います。
生命に必然である「死」を迎えるまで、少しでも「老化」を遅らせ元気に生活し、人生を謳歌したいものです。
参考文献:デイビット・A・シンクレア『LIFESPAN 老いなき世界』
樂木宏美『「100年ライフ」のサイエンス』