よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

新型栄養失調とは  ~ミネラル不足にならないために~

2021-09-13 14:37:34 | 健康・病気
 飽食の時代に栄養失調など考えられないと思っていませんか?昔の栄養失調といえば、カロリー不足で痩せているイメージです。一方、新型栄養失調は、カロリーは十分足りているが、偏った食事により蛋白質やビタミン、ミネラルが不足しておこる体の不調を指します。その中で今回は、ミネラル不足の話です。

 ミネラルとは、生体を構成する主要な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外のものの総称で、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンを多量ミネラル(総重量の3~4%)、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、コバルト、セレン、クロム、モリブデンを微量ミネラル(総重量の0.02%)と呼びます。ミネラルは体内で合成できないため食物として摂る必要があります。
 微量ミネラルは、原子の表面で電子の授受が起こりやすく反応性に富んでいるため、生体内では酵素や生理活性物質の活性中心として働きます。すなわち、生命の維持や生体の恒常性を維持するための生化学反応をスムーズにおこなうために、微量ミネラルは必要不可欠な元素になります。不足した場合は、成長障害、神経障害、免疫力低下、味覚障害、貧血、骨折、皮膚障害、倦怠感などさまざまな不調が発生します。また最近の研究では、微量ミネラル欠乏症は、生活習慣病や老化との関係が深いこともわかってきました。他方、摂りすぎた場合にも過剰症や中毒を起こすことがあります。
さて、新型栄養失調と呼ばれるミネラル不足は、食事とその食材に原因があると考えられています。
 ① 弁当、惣菜、冷凍食品、レトルト食品などの原料に、水溶性成分とともにミネラルが溶け出た「水煮食品」が使われること。カットされたサラダ野菜も同様です。
 ② ミネラルの吸収を阻害する「リン酸塩」がたくさんの加工食品に添加されていること。リン酸塩は、一括名(PH調整剤、調味料(アミノ酸等)、かんすい、膨張剤、乳化剤など)として、さまざまな加工食品に使われています。体に吸収されず排泄されるため安全性は高いと考えられていますが、胃の中でミネラルと結合し、ミネラル吸収を妨げることになります。カルシウム吸収阻害による骨粗鬆症、亜鉛吸収阻害による味覚障害は有名です。
 ③ 加工食品の原材料の大半が「精製」されて、ミネラルが抜かれていること。油、砂糖、塩、水などは、ミネラルを含む不純物が取り除かれて使用、販売されています。

 ミネラルの少ない野菜も問題です。一年中食卓にのぼる野菜ですが、やはり旬と旬でない時期のものは栄養価だけでなくミネラルの含有量が違います。さらに、護岸工事の行き渡った川からの水は、以前よりミネラルの含有が少なく、育てる土も化学肥料の乱用により窒素、リン、カリウムは多いが微量ミネラルが少ない土壌となっています。さらには、水耕栽培の野菜も増えています。

 では、実際の食事でミネラルはどの程度補給することができるのでしょう。
 若い方には、一日の食事をほとんどコンビニ食でまかなっている人もいると思います(朝はパン、昼は幕の内弁当、夕は唐揚げ弁当)。このような場合、カロリーも働き盛りとしてはやや物足りませんが、各種ミネラル(特に鉄、カルシウム)は20代女性の一日目標摂取量に全く足りません。
 コンビニ食にバランスを考えてサラダやスープを追加して豪華にした場合はどうでしょうか。カロリーは2600kcal以上と20代男性の必要量を満たしていますが、やはり一日摂取目標量のミネラルを補給することはできません。
 このようなコンビニ食を続けている場合、ミネラル不足で健康障害が出る可能性が97%以上と考えられています。さらに牛乳や野菜ジュース、アーモンド、海苔、焼きめざしなどを追加する必要があります。
高齢者向け宅配弁当も、栄養バランスよく作られているように見えます。しかし、タンパク質はとれていますがミネラルは目標量の半分にも届きません。

 このように普通に市販されている弁当は、低価格、保存、食中毒を避けるという観点から、水煮野菜、リン酸塩、精製した食材を使用しているため、ミネラルが不十分です。食堂やレストランでの外食の場合でも同様な傾向が見られます。ミネラルをしっかり補充するには、イワシの煮干粉や雑穀ふりかけを加えると一気に目標量のミネラルを摂ることができます。
 
 最後に、手作りで有名な北海道置戸町の小学校給食を調べた結果も紹介します。さすが愛情一杯の手作り給食では、育ち盛りの子供たちに必要な十分なカロリーおよびミネラルが含まれています。

 ミネラル不足による新型栄養失調を防ぐには、便利でお手頃な加工食品をなるべく避け、旬の食材を使った手作り料理が一番です。「体は食べたものから作られており、自分の体は自分で守る」という健康管理の基本がここでも重要です。


参考文献:柳澤裕之ら『微量ミネラル欠乏症とは』日医雑誌第150巻・第3号 2021年6月
小若順一『食べなきゃ、危険!』三五館、『食べるな、危険!』幻冬舎
     中戸川貴『食事でかかる新型栄養失調 アップデート』ヘルシーパスオンラインセミナー