よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

アルツハイマー型認知症 ~最新の研究と治療~

2021-11-02 15:09:08 | 健康・病気
 「最近、物忘れがひどくなった」と感じていらっしゃいませんか?かく言う私も、「名前がでてこない」「物覚えが悪い」と感じることが頻回にあります。
無論、多くの場合、加齢による生理的な脳活動の衰えで病的なものではありません。しかし、日常生活に支障がでる(介護が必要となる)ほどの記憶障害をきたすと認知症と診断されます。今回は、65歳以上の日本人の有病率15%と推定され、認知症の7割弱を占めるアルツハイマー型認知症を取り上げます。

 アルツハイマー型認知症は、大脳皮質や海馬などに老人斑(アミロイドβ蓄積)神経原線維変化(タウ蛋白増加)を病理学的特徴とする変化がおこり、神経細胞死、シナプス減少、神経伝達物質(アセチルコリン)低下により、記憶と学習の障害を主体とする病気です。
緩徐進行性の認知機能低下があり、頭部MRIで脳の萎縮やSPECTで脳血流低下、アミロイド沈着などが確認されれば診断されます。治療としてアセチルコリンを増やすコリンエステラーゼ阻害薬、グルタミン酸過剰放出を抑制するNMDA受容体拮抗薬の内服や認知刺激、運動療法、音楽療法など様々の非薬物治療が行われています。
 ただ今までの治療では、進行を遅らせることはできても治すことは困難でした。過去数十年にわたり、世界中の研究者が治療薬を開発してきましたが、未だに画期的な治療薬は見つかっていません。その理由として、アミロイドβを分解・除去すれば病気が治るというほど単純でないことがあります。
以下に最新の研究、治療に対する考え方の進歩について紹介したいと思います。

 アミロイドβが生成されるのには、三つの原因があることがわかってきました。
感染性またはトランス脂肪、糖毒性、腸漏れなど非感染性による炎症
栄養素、ホルモン、脳細胞の栄養の低下あるいは不足
毒素(金属、カビなど生物毒素)
 これらに対する脳の防御反応として、神経突起の成長とシナプス維持を促し、記憶の形成と維持をサポートするためアミロイド蛋白前駆体(APP)が脳神経細胞から出現します。このAPPが、その時の細胞周囲の環境により2つに切断されればアミロイドβはできず成長する方向にすすみ、4つに切断されればアミロイドβが生成され脳細胞は分解される方向にすすみます。尚、分解されることも脳の自浄作用として必要なものです。しかし、この成長と分解バランスが崩れ、アミロイドβが過剰に蓄積されると脳神経細胞は破壊されアルツハイマー病が進行します。
 またはアルツハイマー病の遺伝的危険因子(ApoE4)もわかってきました。日本人の9%がApoE4遺伝子を保有していますが、この遺伝子を持たない人のアルツハイマー症発症リスクは9%ですが、ひとつ保有している人のリスクは30%、2つ保有している人のリスクは50%以上になると言われています。

 アルツハイマー病の原因は上記のように多彩ですが、自分がどのタイプにあてはまるかがわかれば、それに対応することにより、予防でき、進行を止めることも、回復させることもできるようになります。

 最近注目されているのは、感染性炎症をおこす歯周病です。代表的な歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌とその菌が分泌するジンジパインというたんぱく質分解酵素がアルツハイマー病患者のアミロイドβ蓄積部から検出されました。通常であれば、脳血管関門と呼ばれる防御機構により脳は、細菌やウイルスから守られていますが、PG菌はその関門を突破し、脳に炎症を起こすことがわかってきました。現在ジンジパイン阻害薬の臨床治験が行われています。また歯周病がひどくなれば、歯が脱落し、しっかり噛めなくなります。これも脳血流障害の原因となり認知機能を低下させます。
 糖尿病(高インスリン血症と高血糖)は、非感染性炎症を起こす最も重要な危険因子です。インスリンを分解するインスリン分解酵素(IDE)はアミロイドβの分解も行うため、インスリンが慢性的な高値の状態ではアミロイドβの分解ができなくなります。また高血糖が続くとAGEとよばれる終末糖化産物が産生され慢性炎症の原因になります。この状況を打開するには、体を軽いケトーシス状態にする必要があります。低炭水化物食、適度な運動、12時間の絶食を組み合わせる、中鎖脂肪酸オイル、オリーブオイル、アボカド、ナッツなどの不飽和脂肪を摂取することが有効です。
 栄養素としては、ビタミンB群、D、E、亜鉛、マグネシウム、ω3脂肪酸、クルクミン、アシュワガンダ、レスベラトロール、プロバイオティクス(いも類、たまねぎ、にんにくなど)、ブロッコリー、ハーブ、卵などがあり、食事やサプリとして積極的に摂りいれたいものです。
その他、適度な運動、十分な睡眠、過剰なストレスを避ける(十分な休養)、脳トレプログラムなども必要です。
 マグロ、メカジキなどの大型魚には神経毒である水銀が蓄積されているため、過剰摂取は禁物です。また歯科治療でアマルガムの詰め物がしてある場合は、速やかに撤去するべきです。解毒プログラムも効果があります。

 出来ることを今のうちから実行し、予防することが最善策と思います。

参考文献:日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』
デール・プレデセン『アルツハイマー病 真実と終焉』ソシム株式会社