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山川方夫「夏の葬列」

2010年08月12日 | や・ら・わ行の作家
ショート・ショート7編
中篇2編

文庫カバーの明るい海の絵がしっくりきません
中央に描かれている少年の表情が硬いようではありますが


非日常的なドラマはなく、劇的な出来事も起きない
平均的な人間たちがありふれた場所で暮らす日常を描いています

山川方夫が描く人間たち
傍から見れば幸福で平穏な彼らの日常は、ある瞬間それまでとは違う暗がりを見せる
誰もが持っている暗がり、不安、孤独
しかし、それは「瞬間」のことで、やがて彼らはまた元の日常に戻っていく




表題作
「夏の葬列」
太平洋戦争末期、疎開先の小さな町が空襲されたとき自分をかばおうとしてくれた少女を突き放してしまい、彼女は銃撃される
長い間、心の奥に仕舞い込んでいた少女への罪の意識
大人になった少年は出張の帰りに思い立って訪れた小さな町で、葬列に出くわす


「待っている女」
日曜日、ゴロ寝ばかりしている夫に愛想を尽かしてひとり出かけていった妻
夫は近所のタバコ屋の前で何時間も立ち続けている若い女に気づく
一体彼女は誰を待っているのか
夜になってやっと戻ってきた妻は何処で何をしていたのか


「お守り」
巨大な団地に暮らす男
ある夜、自分の前を歩いている男が自分の家に入って行くのを見る
妻はその男が夫ではないことに気づかない様子
ドッペルゲンガーなのだろうか
同じような建物が並ぶ団地で、似たり寄ったりの生活をしている自分達
まるで規格化されているようではないか


他に
「十三年」
「朝のヨット」
「他人の夏」
「一人ぼっちのプレゼント」
「煙突」
「海岸公園」

どれも人間の心を見事に描いています


1965年35歳の時に交通事故死
惜しいことです

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