「るど」が来て、一年くらいたっただろうか。
近所に、ようやく目が開いたくらいのちっちゃい子ネコが捨てられていた。
通りかかった小学生の息子に、近所のおじさんが、「はい。ボク。」って言って一匹を手渡した。
息子はどうしていいかわからず、…仕方なく家に連れてきた。
「ルドがいるから、飼うのはむりだよね。」
仕方なく、二人で子ネコがいたあたりにそっと戻してきた。
「誰かにひろってもらいなよ…」
無責任な言葉だ。 しかしどうしようもない。
後ろ髪引かれる思いで、戻ろうとしたとき、
子ネコは、必死で後をついてきた。
「どうしよう。」とりあえず、再び家に連れて帰った。
庭で、水とエサをあげた。
子ネコは、あまりにも幼くて、ひとりでエサを食べるのもやっとという感じだった。
母猫は心配しているだろうな…
「そのうち、どこかにひとりで行くよ」
あきらめきれない息子を、わけのわからない言葉で説得して、その場を離れた。
一匹では とても生きていけるわけがない。 わかっているから、……いやな罪悪感。
それから数時間たった。
「もう、いないだろうな。」
夜、11時ころ、夫が帰ってきた。
胸に、見覚えのある子ネコ。
「庭に猫がいた。」と言って。
人は、つらい時や、孤独な時、満たされない気分の時、動物を飼いたくなるらしい。
夫は、その日、きっとそんな気分だったのだ。(…ただパチンコに負けただけ…)
人なつっこい子ネコが、意気消沈した心に、スッと入ってきた。
夫の承認も得られ、息子も「自分が面倒を見る」という約束で、この捨て猫は我が家にやってきた。(面倒見るって…ちょっとは、約束守ってね!)
黒いシマのあるちっちゃなオスのブチ猫。
「ニャー」と一言も鳴かず、声が出ないのかと心配した。
ちょろちょろと落ち着きがなく、寝ている以外は動いていて、よくじゃれた。
いつの間にか、「ちょろ」と呼ばれるようになった。
9年間一緒にいた。
しかし、「ルド」にとっては、大事件だったに違いない。
この後、「ルド」の運命は、「ちょろ」のために変わってしまったのかもしれない。