毎年、家族で青森に帰省した。
夫の実家で、白神山地を間近に望む、日本海に面した、静かで美しいところだ。
もちろん、猫同伴で。 電車にゆられてはるばると10時間近く。
「ルド」は、その短い生涯で、2回訪れた。
すべてが初めてで、すべてが新鮮で、…恐怖だったかもしれない。 別世界だった。
1回目、 海を見た。
用心深い「ルド」は、キャリーケースを開けると、しばらく様子を見て、おそるおそる砂浜に第一歩を踏み出した。
私たち以外誰もいない。
どこまでも広い空間。 空、海、砂浜だけ。
聞きなれない波の音。 ウミネコの声。
足を取られる、砂の感触。
潮風のにおい…。
いつもと違う 体に染み渡るような透き通った空気。
キャリーケースはタイムマシーンみたいだっただろう。