私は、なぜ、あの日、あの時間、あの道を通ったのだろう。
仕事へ行く方向とは全く反対だった。何の用があったのだろう。全く思い出せない。
9月1日。子供たちの、2学期の始まりの日、…それは夕方だった。
(でももし、あの時「ルドルフ」に会わなかったら、いつまでも「ルド」はどこかで生きていると信じていたかもしれない。あきらめきれなかった…。)
自転車で5,6分のところに、その場所はあった。
家の近くの広い国道。 車が激しく行き交う。
まだ、夏の日差しが夕方になっても残っていた。
その歩道の街路樹の陰に、黒い猫は横たわっていた。
通りがかって、一瞬、思わず目をそむけた。
「かわいそうに…。国道でひかれたんだ…。」
次の瞬間、ハッ…とした。
「ルドルフ?」
似ているけど… まさか…
「まさか…!! まさかだよね… ルドルフ!!」
急いで、自転車をとび降りて駆け寄った。
黒い猫は、すでに死んでいた。
もうだいぶ時間がたっていたのだろう。
固く、つめたかった。
黒い体が砂と血で汚れていた。
おそるおそる、砂を払って黒猫のおなかを見た。
「違うよね… 絶対違うよね。」
半月前、あのネズミ取りで毛が抜けたところが…
少しうぶ毛が生えかかっていた。
信じたくなかった。…でも…
それは紛れもなく、「ルドルフ」だった。
あわてて、子供たちに知らせ、ルドを運ぶ段ボールの箱を持って戻ると、……「ルドルフ」はそこにはもういなかった。
たぶん、昨夜、車にひかれたのだろう。
時間がたって、近所の人が、見かねて、引き取りを清掃局に依頼したのだろう。
「ルド」は私たちの元には、戻らなかった。そのまま消えていなくなった。
会ったのは、30分前だったのに…。