太郎(たろう)は昨夜(ゆうべ)、些細(ささい)なことで帆波(ほなみ)と口論(こうろん)になった。いつものことなのだが、妻(つま)の愚図(ぐず)なところが我慢(がまん)ならないのだ。イライラしながら眠(ねむ)りについたせいか、太郎は朝目覚(めざ)めても何だか頭が重く、ベッドから起き上がる気にもなれなかった。でも、仕事(しごと)に行かないと…。太郎はベッドから起き上がろうと頑張(がんば)った。その時、寝室(しんしつ)のドアが勢(いきお)いよく開いた。
「いつまで寝(ね)てんのよ! ほんとに愚図なんだから」
それは、妻の帆波だった。でも、いつものおっとりした様子(ようす)はなく、その目はつり上がり鬼嫁(おによめ)のようだった。帆波は太郎の腕(うで)をつかみ、ベッドから引きずりおろすと言った。
「早く朝食(ちょうしょく)を作りなさい。仕事に遅(おく)れるでしょ!」さらに罵声(ばせい)は続く。「あなたはノロいんだから。いつも言ってるでしょ。何であたしの言うように、早く起きないのよ!」
「おい、帆波。どうしたんだよ。何で…」
「口答(くちごた)えしないで、さっさとやりなさい! ほんと愚図なんだから」
帆波は夫(おっと)を締(し)め上げた。その力といったら、大(だい)の男でも抵抗(ていこう)できないほどだった。太郎は、苦(くる)しさのあまり手足をばたつかせ、何とか逃(のが)れようと必死(ひっし)でもがいた。
その時、どこからか天使(てんし)のような声が聞こえた。「あなた…、どうしたの?」
太郎が目を開けると、妻の顔があった。太郎は大きく息(いき)をついた。帆波は、いつもと変わらない笑顔(えがお)を見せて、「昨夜は、ごめんなさい。ねえ、もう起きないと、会社遅れるよ」
<つぶやき>たまには相手(あいて)の立場(たちば)になって考えてみて。自分がどう見られているのかを。
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