僕(ぼく)は古本屋(ふるほんや)で買った本の中に手書(てが)きの地図(ちず)を見つけた。たまたま遊(あそ)びに来ていた友人たちにその地図を見せると、宝(たから)の地図じゃないのかと盛(も)り上がった。
「――探そうって言ったて、地名(ちめい)とか書いてないからなぁ。どこの地図か分かんないだろ」
「でも、これ橋(はし)の名前(なまえ)だよな。富士見橋(ふじみばし)って書いてあるぞ」
みんなはおでこをぶつけるように、地図に見入(みい)った。一人が言った。
「俺(おれ)、知ってるぞ。家の近くにある小さな橋、富士見橋って言うんだって」
みんなはいっせいに彼を見る。彼は、「ばあちゃんから聞いたんだけど…」
「なあ、この下手(へた)な絵、お地蔵(じぞう)さんだよな」また、みんなは地図に集中(しゅうちゅう)する。
一人が叫(さけ)んだ。「これって、ほら、あそこの角(かど)にある、あのお地蔵さんじゃないのか」
みんなは色めき立った。そして、大騒(おおさわ)ぎしながら地図の道(みち)を目印(めじるし)へたどっていった。
その時、「うるさいぞ」っておじいちゃんがやって来て、地図を見て言った。「これは…」
「おじいちゃん、知ってるの?」僕はうわずった声で、「この古本に挟(はさ)んであったんだ」
「この本は、わしが先週(せんしゅう)、売(う)ったやつだ。こんなとこにあったんだ。これはな、わしが死んだ婆(ばあ)さんに渡(わた)そうと思ってな。婆さんとは一目惚(ひとめぼ)れで、最初(さいしょ)は話もできんかった。だから、わしはここに住んでるって、婆さんに教えたくてな。でも、結局(けっきょく)渡せんかったがなぁ」
<つぶやき>恋する思いを伝えるのは大変なんです。今も昔も、それは変わらないのかも。
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