あたしが立てた人生設計(じんせいせっけい)は完璧(かんぺき)なものだった。志望校(しぼうこう)には一発合格(いっぱつごうかく)、一流企業(いちりゅうきぎょう)にだって就職(しゅうしょく)できた。それもこれも、自分(じぶん)の立てた目標(もくひょう)を忘(わす)れずに、人並(ひとな)み以上(いじょう)の努力(どりょく)を重ねたからだ。でも結婚(けっこん)に関(かん)しては、努力が報(むく)われるとは限(かぎ)らない。
あたしは三十を目前(もくぜん)にしていた。予定(よてい)では、すでに子供を産(う)んでいるはずなのに…。結婚に向けて習(なら)いごともしたし、家事(かじ)だって完璧にこなす自信(じしん)もある。なのに、この人はって思っても、売約済(ばいやくず)みか既婚者(きこんしゃ)ばかり。あたしは高望(たかのぞ)みなんてしてないわ。ごく普通(ふつう)に優(やさ)しくて、普通に真面目(まじめ)で、普通に稼(かせ)いでくれる人でいいの。なのに、何でいないのよ。
そんな時だった。両親(りょうしん)からお見合(みあ)いの話がもたらされた。お相手(あいて)は申(もう)し分のない人で、それにあたしより二つ年下(としした)。こんな話に飛(と)びつかないなんて、馬鹿(ばか)よ。あたしには時間がないの。リミットは目前にせまっていた。
見合いの当日。あたしは、朝から妙(みょう)な緊張(きんちょう)に包(つつ)まれていた。じっとしていられなくて、やけに喉(のど)が渇(かわ)くの。見合いの席(せき)につくときも、足が震(ふる)えてつまずきそうになってしまった。座ってからも相手の話なんか耳に入らなくて、ずっと彼の顔を見つめたまま――。きっとあたし、マヌケな顔をしていたかもしれない。最悪(さいあく)なのは、あたしの最初のひとこと。
「結婚してください!」
この瞬間(しゅんかん)、あたしは、完璧な人生設計が崩(くず)れていく音を聞いた。
<つぶやき>人生はまだまだ長い。この先、きっと良いことが待っているかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。