茜(あかね)は何かにつけて、近くの神社(じんじゃ)へお参(まい)りを欠(か)かさない。初詣(はつもうで)はもちろんのこと、高校や大学の入試(にゅうし)の前にも必(かなら)ずお参りをした。そのおかげかどうか、今までの願いはすべて叶(かな)えられてきた。今日も朝早くから、社殿(しゃでん)の前で熱心(ねっしん)に手を合わせる茜の姿(すがた)があった。
「神様、今日、神谷(かみや)先輩に告白(こくはく)をします。私の、人生(じんせい)初の告白です。どうか、先輩(せんぱい)と付き合うことができますように。お願いします」
彼女は深々(ふかぶか)と頭を下げると社殿をあとにした。これだけ念入(ねんい)りにお参りをして、お賽銭(さいせん)だっていつもより奮発(ふんぱつ)した。これできっと願いはとどくはず。茜の心に、そんな確信(かくしん)が芽生(めば)えていた。これで先輩の前でも、ためらうことは絶対(ぜったい)にないわ。
茜が参道(さんどう)を歩いていると、一人の老人(ろうじん)が彼女に会釈(えしやく)をした。茜も、たまに見かける人なので頭を下げる。いつもならそれだけなのに、今日は老人の方から話しかけてきた。
「いつもお参りをしてくれる感心(かんしん)な子じゃのう。だがな、今回ばかりは無理(むり)じゃ。なんせ、ここは五穀豊穣(ごこくほうじよう)、学業成就(がくぎょうじょうじゅ)、交通安全(こうつうあんぜん)が専門(せんもん)じゃからのう」
「はい…」茜はあいまいに返事(へんじ)を返す。
老人は、「恋愛(れんあい)については、縁結(えんむす)びの神(かみ)さんへ行ってくれんか」
老人はそのまま社殿の方へ歩いて行った。茜も、「変な人…」って思いながら歩き出す。でも、気になって彼女は後ろを振(ふ)り返った。すると、もうそこには老人の姿はなかった。
<つぶやき>神頼(かみだの)みでもいいんです。そうすることで、勇気(ゆうき)や自信(じしん)がわいてくるかもね。
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