みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0142「保険の人」

2018-01-18 18:59:00 | ブログ短編

 私は父と二人暮(ぐ)らし。母はずいぶん前に亡(な)くなっている。だからってこともないけど、結婚(けっこん)したいって気にはならなかった。そんな私も、年頃(としごろ)を過(す)ぎてやっと結婚を決めた。
 これを機(き)に、私は父を旅行(りょこう)に誘(さそ)った。父への感謝(かんしゃ)も込めて、二人で楽しい思い出を作ろうと思ったの。でも、父にはちょっと変な癖(くせ)があって、何にでも保険(ほけん)をかけたがるんだ。
 父はすぐに旅行の準備(じゅんび)をはじめた。旅先(たびさき)の地図(ちず)とコンパス。寝袋(ねぶくろ)に大量(たいりょう)の非常食(ひじょうしょく)、それに薬(くすり)の数々。私は唖然(あぜん)とした。一泊(ぱく)二日の温泉(おんせん)旅行なのに、何でこんなに…。父は、旅先は何が起こるかわからんって言って。私は即座(そくざ)に却下(きゃっか)したけど。旅館(りょかん)に着いてからも大変だった。旅の雰囲気(ふんいき)を味(あじ)わうどころじゃないわ。やっと落ち着けたのは食事(しょくじ)のとき。
 父はビールを飲みながら、ぽつりと言った。「本当(ほんとう)に、あの男でいいのか?」
 父は結婚について反対(はんたい)はしなかったので、まさか今になってそんなこと言うなんて。
「ちゃんと、保険はかけてあるんだろうな?」
「保険って…」私はそのままの言葉を受け取って答えた。
「まだ、そんなのいいわよ」
「よくない。ちゃんと彼の代わりを用意(ようい)しておかないと。もし、あの男とダメになっても、キープの男がいれば安心(あんしん)じゃないか」
「そ、そんなのいないわよ。お父さんだって、お母さんのことずっと好きだったんでしょ」
「ああ、ずっと好きだったぞ。でも、お母さんは保険の方だったんだがな」
<つぶやき>娘として、こんな父親どうなんでしょ。でも、きっと良い父親だったのかな。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする