「ちょっと太(ふと)ったんじゃない?」
彼のこの不意打(ふいう)ちのひとことで、何の準備(じゅんび)も予想(よそう)もしていなかった私は言葉(ことば)を失(うしな)った。でも、ここで何か言っておかないと、認(みと)めてしまうってことになりかねない。
「そんなことないわよ」私は笑(わら)いながら答えた。でも、顔は引きつっていたかも…。
――絶対(ぜったい)違う。絶対違(ちが)うわよ。私は家に帰るまで、この言葉を呪文(じゅもん)のように唱(とな)えていた。家に帰ると、さっそく鏡(かがみ)の前に立ってみた。そこには、いつもと変わらない私が映(うつ)っている。ためしに、服(ふく)をまくり上げてお腹を出してみる。
「ほら、ぜんぜんじゃない。いつもと変わらないわ」
私は、ホッと胸(むね)をなで下ろした。ふと、体重計(たいじゅうけい)が目に入った。そういえば、最近計(はか)ってなかったわ。私は、体重計に乗(の)ってみようと思いついた。でも…。
「そこまでしなくても――別にいいよね。大丈夫(だいじょうぶ)なんだから…」
私は自分に甘(あま)いところがある。でも、今回はそれでは済(す)まされない。彼に太っているって思われたのは事実(じじつ)なんだから。私は目をつぶって体重計の上に…。そして、思い切って目を開ける。あーっ――。
「ぜんぜん大丈夫じゃない。あーっ、よかったーぁ」
<つぶやき>女の子は、ちょっとしたことで心を乱(みだ)してしまう。繊細(せんさい)な生き物なのです。
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