みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0434「妄想の狭間」

2019-01-13 18:32:04 | ブログ短編

「は~ぃ、あたしが食べさせてあげる。お口(くち)、あ~んして」
 僕(ぼく)は彼女の声で目を覚(さ)ます。目の前には、僕の憧(あこが)れの彼女がいて、卵焼(たまごや)きを僕の口のほうへ――。僕は、思わずのけぞった。何じゃこりゃ! こんなことあり得(え)ない。
 確(たし)かに、僕は彼女との恋愛(れんあい)を何度も何度も妄想(もうそう)していた。あんなことや、こんなことまで…。今、目の前で起(お)きていることは、僕の妄想の世界(せかい)にほかならない。きっとこれは、僕が変な妄想を膨(ふく)らませ過(す)ぎたから、妄想の世界に取り込まれてしまったんだ。
 どこからか声がした。「何やってんだよ。チャンスじゃないか、食べさせてもらえよ」
 その声は紛(まぎ)れもなく自分の声だ。僕は考(かんが)えた。このまま、欲望(よくぼう)のおもむくままに突(つ)き進んだら、絶対(ぜったい)、元の世界に戻(もど)れなくなる。踏(ふ)みとどまるんだ! また声がした。
「なにビビってんだよ。ここで引いたら男じゃないぞ。それでもいいのか?」
 かまわない。それでも全然(ぜんぜん)かまわない。だって僕の憧(あこが)れの彼女が、こんなことをするなんて…。僕は、彼女を冒涜(ぼうとく)することなんてできない。そんなこと許(ゆる)されないんだ!
「ね~ぇ、山田くん」彼女が優(やさ)しく僕に微笑(ほほえ)みかけてくる。「山田くん。山田くん…」
 僕は目覚(めざ)めた。そこは教室(きょうしつ)で、僕は元(もと)の世界に戻れたんだ! 僕は思わず叫(さけ)んだ。そして、隣(となり)の席(せき)にいた彼女の手を取り、「ありがとう。君のおかげで――」
「コラ、山田! 授業中(じゅぎょうちゅう)だぞ。なに寝(ね)ぼけてるんだ!」
<つぶやき>この後、憧れの彼女から手痛(ていた)いビンタをくらったのは、間違(まちが)いないだろう。
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