講義(こうぎ)が終わると一人の生徒(せいと)が教授(きょうじゅ)に駆(か)け寄り質問(しつもん)した。
「なぜ人は恋(こい)をするんでしょう?」
教授(きょうじゅ)は首(くび)を傾(かし)げて考えていたが、「生物学的(せいぶつがくてき)にいえば、子孫(しそん)を残(のこ)すためじゃないのか」
「じゃあ、どんなオスでも構(かま)わないってことですよね」
「それは違(ちが)うな。より強(つよ)いもの、賢(かしこ)いものを選(えら)んでいる。要(よう)するに、生きるために必要(ひつよう)なあらゆる要素(ようそ)に秀(ひい)でたオスを選ぶように進化(しんか)している。オスからいえば、体(からだ)を大きく見せたり、美しく着飾(きかざ)ったりして、メスを振(ふ)り向かせようと――」
生徒は教授の顔を見つめて言った。「教授は、人を好きにならないんですか?」
教授は唐突(とうとつ)な質問に思考(しこう)が停止(ていし)したようだ。生徒は構(かま)わずに、
「だって、教授はいつも同じ服(ふく)を着てるし、自分を良く見せようとしないじゃないですか」
「私は、そういうことには……。君(きみ)は、なぜそんな質問をするんだね?」
「あたし、何か、恋をしちゃったみたいなんです」
「…そうかね。それは、良かった。まあ、頑張(がんば)りたまえ」
「教授は独身(どくしん)ですよね。あたしの恋の相手(あいて)、知りたくありません?」
「……。私は、恋をしている時間が無(な)いんだ。他にやることがいっぱいあってね。それに、私は高いことろが苦手(にがて)だ。だから、恋には不向(ふむ)きなんだ。失礼(しつれい)するよ」
<つぶやき>教授は、ほろ苦(にが)い恋をしたことがあるのかもね。恋に理屈(りくつ)は必要ないです。
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