いつものレストランで、女友だち三人が食事(しょくじ)をしていた。いつもなら和気(わき)あいあいと女子会で盛(も)り上がっているはずなのに、どうも今日は様子(ようす)が違(ちが)うようだ。
「ねえ、どうしたの?」睦美(むつみ)は好子(よしこ)に訊(き)いた。「あなたの大好物(だいこうぶつ)じゃない」
朋香(ともか)も心配(しんぱい)して、「そうよ。いつもみたいに、これ美味(おい)しいって…」
好子は浮(う)かない顔で、「何かね、食欲(しょくよく)がなくて。ちっとも美味しいって思えないの」
睦美と朋香は顔を見合わせた。好子の口から食欲が無いなんて言葉が飛び出すなんて。
朋香は好子の額(ひたい)に手を置いて、「どこか身体(からだ)の具合(ぐあい)でも悪(わる)いの? 病院(びょういん)行った方が…」
「どこも悪くないわ」好子はため息(いき)をついて、「何かね、胸(むね)のあたりがキュンとして」
睦美はハッとして朋香に囁(ささや)いた。「まさか、恋(こい)をしちゃったとか」
朋香は目を丸(まる)くして、「うそ。食べ物しか興味(きょうみ)がない好子が? あり得(え)ないよ」
好子は口をとがらせて、「あたしだって、男性に興味ぐらいあるわよ」
二人は好子にやつぎばや質問(しつもん)を浴(あ)びせた。「どこの誰(だれ)よ? あたしたちの知ってる人?」
「誰だか知らないわよ。仕事(しごと)の帰りに、たまたま駅(えき)の所で…。ちょっと話して…」
睦美はちょっと怒(おこ)った顔で、「もう、何やってんのよ。明日、仕事終わりに駅に集合(しゅうごう)ね」
朋香が驚(おどろ)いた声で訊(き)き返した。「えっ、何で? あたし、ちょっと明日は…」
「好子がどんな男に惚(ほ)れたのか確(たし)かめなきゃ。明日から、駅で張(は)り込みするわよ!」
<つぶやき>食欲に勝(まさ)る男がいるなんて。これは確かめる価値(かち)があるのかもしれませんね。
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