ある日のこと、夫(おっと)が段(だん)ボール箱を大事(だいじ)そうにかかえながら帰って来た。夫が言うには、
「パンドラの箱(はこ)を手に入れたんだ。これは世界に一つしかない珍品(ちんぴん)なんだ」
夫はネットオークションで見つけたらしく、会社へ届(とど)いたという。夫が段ボール箱を開けると、中から出て来たのは薄汚(うすよご)れたただの木箱(きばこ)。どう見てもパンドラの箱とは思えない。
妻(つま)は呆(あき)れた顔で夫に訊(き)いた。「ねえ、そんなのいくらで買ったのよ?」
「十万だよ。ギリシャ神話(しんわ)では、この中にあらゆる悪(あく)と災(わざわ)いが詰(つ)まってたんだ。でもな、今この箱の中に残(のこ)っているのは希望(きぼう)なんだって。知ってたか?」
「そんなこと知らないわよ。あなた、そんなお金どうしたのよ?」
夫は妻の質問(しつもん)も耳(みみ)に入らないのか、大きなため息(いき)をついた。
「見てみろよ。錠(じょう)が掛(か)かってる。これは開けるなってことだよ。きっとそうだ」
それから数日後、夫は思い悩(なや)んだ顔で帰って来た。そして妻に切り出した。
「なあ、鍵(かぎ)を見つけたんだ。これは、やっぱり手に入れておいた方がいいかな?」
妻は不安(ふあん)にかられながら訊いた。「何の話よ。ちゃんと分かるように言って」
「パンドラの箱の鍵が、オークションに出てるんだ。百万なんだけど買ってもいいか?」
妻は目をつり上げて言った。「そんなことしたら、そく離婚(りこん)だからね。分かった!」
<つぶやき>これはまさにパンドラの箱の災いなのかもしれません。開けちゃだめだよ。
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