みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1091「よみがえる」

2021-07-04 17:43:16 | ブログ短編

 彼女は目覚(めざ)めた。そこは、誰(だれ)もいない病室(びょうしつ)。彼女はふらふらと部屋(へや)を出ると外(そと)へ向かった。外は夜だった。夜風が心地(ここち)よく彼女の頬(ほお)をなでた。彼女は振(ふ)り返った。病院(びょういん)はまるで廃墟(はいきょ)のように暗(くら)く静(しず)まり返っている。
 彼女は、どこをどう歩いたのか、見覚(みおぼ)えのある場所(ばしょ)に出た。ある家の前で彼女は立ち止まり、玄関(げんかん)の呼鈴(よびりん)をならした。すると、中から中年(ちゅうねん)の男性が出てきた。扉(とびら)を開けた男は、彼女の顔を見て思わず呟(つぶや)いた。「姉(ねえ)さん……」男は我(われ)に返ると、
「す、すいません。あんまり似(に)てたもんで…。あの、どなたですか?」
 彼女は男の顔をまじまじと見て、「えっ、義之(よしゆき)なの? うそ、おじさんになっちゃって…」
「はぁ? あの、どうして僕(ぼく)の名前(なまえ)を…」
「もう、姉(あね)の顔を忘(わす)れたのか? なんてヤツだ。あんなに可愛(かわい)がってやったのに」
「まさか、ほんとに…姉さん? そ、そんなはずないだろ。だって、姉さんは…死(し)んで…」
「そうなのよねぇ。私、死んだはずよね。どうしてここにいるんだろ? ねぇ、母さんたちは? みんな元気(げんき)なの? もう、家が新しくなってるから、どうしようかと思ったわよ」
 彼女は家の中に上がり込んだ。男は彼女の後を追(お)いかけて、「親父(おやじ)とお袋(ふくろ)は旅行(りょこう)だよ。うちのヤツが子供(こども)と一緒(いっしょ)に連(つ)れてってる。俺(おれ)は…仕事(しごと)で行けなくて…」
「あんた、結婚(けっこん)したの? わぁ、良かったねぇ。結婚なんかできないと思ってたのに…」
「姉さん。死んでから、もう二十年たってるのに…。何か、思い残(のこ)したことでも…」
<つぶやき>彼女は若(わか)くして亡(な)くなったんですね。きっとやりたいこといっぱいあって…。
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