彼女の家に友だちが遊(あそ)びに来た。友だちは部屋(へや)の中を見て回(まわ)りながら言った。
「えっ…、すごいじゃん。よくこんなとこ借(か)りられたねぇ。高いんじゃないの?」
友だちはお風呂場(ふろば)の前で立ち止まった。風呂場の入口(いりぐち)には、なぜか御札(おふだ)が貼(は)られてあった。友だちは…これは、どういうこと? …彼女の方を見たが、訊(き)くのをためらった。
彼女は、「ここって、めちゃくちゃ安(やす)いんだよね。何か、事故物件(じこぶっけん)らしいんだぁ」
友だちは顔色(かおいろ)を変えて、「あなた、なに考(かんが)えてんの? よく、こんなとこ…」
「仕方(しかた)ないじゃん。あたし、そんなにお金(かね)ないし…。でもね、出るっていっても…」
「で、出るの!? いやいやいやいや……。わ、わたし、か、帰(かえ)るね……」
彼女は、友だちを押(お)し止(とど)めて、「ちょっと待(ま)ってよ。出るっていっても、悪(わる)いこととかしないから…。ちゃんと、しちゃいけないこと教(おし)えてあるから心配(しんぱい)ないのよ」
「あなた、なに言ってるの? わたし、こういうの…ほんと、ダメなの」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。ちゃんとお風呂場とトイレには覗(のぞ)かれないように御札も貼ってあるし。それに、夜中(よなか)も騒(さわ)がないように言ってあるから。泊(と)まっても、ぜんぜん平気(へいき)だよ」
「平気って…言われても…。もう、聞いちゃったし…寝(ね)られるわけないでしょ」
彼女は何かを感(かん)じたのか、天井(てんじょう)の方を見つめて言った。「ごめん、何か出てきそうだわ。ちょっと目を閉(と)じててね。すぐ終(お)わらせるから――」
<つぶやき>彼女、幽霊(ゆうれい)とかぜんぜん平気なんだ。話しもしちゃうなんて、ただ者(もの)じゃ…。
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