家に帰(かえ)ると部屋(へや)の中は真っ暗(くら)だった。いつもなら妻(つま)が居(い)るはずなのに…。部屋の明かりをつけると、テーブルの上にメモが置(お)いてあった。僕(ぼく)はそれを見て愕然(がくぜん)とした。
メモには、〈実家(じっか)へ帰ります〉と書かれていた。この丸(まる)っこい字は妻のものだ。僕は、何がなんだが分からず、部屋中歩き回って考えた。だが、どう考えても妻を怒(おこ)らせることなんかしてないはずだ。今朝(けさ)だって、いつもと変わらず…。
「あれ…。今朝は…、妻と…何か会話(かいわ)したかなぁ?」
きっと、これだ。妻のことを空気(くうき)みたいに扱(あつか)っていたのかもしれない。まずいぞ。ここは、やっぱり迎(むか)えに行かないと…。って、妻の実家は遠(とお)くて、日帰(ひがえ)りは無理(むり)じゃないか…。明日、会社(かいしゃ)に行かないといけないのに…。「そうだ。妻に電話(でんわ)して…」
僕は妻に電話をかけた。すると、部屋の中でスマホの着信音(ちゃくしんおん)が…。妻は、そそっかしいところがある。スマホを置き忘れてるじゃないか…! 僕は頭をかかえた。これは、実家に電話するしかないだろう。でも、この時間だと…義父(おとう)さんが…。僕は、義父(おとう)さんが苦手(にがて)だ。妻が家を出たとなると、怒鳴(どな)られるのは間違(まちが)いない。
突然(とつぜん)、電話が鳴(な)った。出てみると…妻からだった。「ねぇ、あたしのスマホ、そっちにないかなぁ。鞄(かばん)の中にないのよ。どっかに落(お)としちゃったのかなぁ…」
僕は思わず叫(さけ)んだ。「僕が悪(わる)かった。謝(あやま)るから…、戻(もど)って来てくれ!」
<つぶやき>これって、ほんとに家出(いえで)したんですかぁ。お互(たが)いに、何か忘(わす)れていませんか?
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