あたしは友達(ともだち)に誘(さそ)われてひなびた温泉地(おんせんち)にやって来た。あまり有名(ゆうめい)なところではないようで、旅館(りょかん)に着くまで、誰(だれ)一人として観光客(かんこうきゃく)と出会(であ)うことはなかった。旅館はいかにも古(ふる)そうな建物(たてもの)で、築百年(ちくひゃくねん)はたっているようだ。みんなはいい感じだよねと口々(くちぐち)に言っていたが、あたしには寂(さび)れすぎていて…。何となく怖(お)じ気(け)づいていた。
部屋(へや)に着くと、みんなはそそくさと温泉に行ってしまった。あたしはそんな気になれなくて部屋に残(のこ)ることにした。旅(たび)の疲(つか)れが出たのか、何だか身体(からだ)がだるくて…。一人でぼーっと座(すわ)っていた。
しばらくすると、どこかから話し声が聞こえてきた。小さな声で、耳(みみ)をすませないと聞き取れないほどだ。私は気になって、その声に聞き耳を立てた。
「……まだ若(わか)いのに、もう長くはないなんて…可哀想(かわいそう)に…」
「……早くなおした方がいいのになぁ。ほうっておくと…余命(よめい)三カ月ってとこか…」
あたしは思わず声をあげてしまった。すると、話し声はしなくなった。
あたしは誰に言うでもなく、「これって…あたしのこと? 余命三カ月って…!」
旅行(りょこう)から帰ると、あたしはすぐに病院(びょういん)へ駆(か)け込んだ。だが、どこにも悪(わる)いところは見つからなかった。あれはいったい何だったのか? 気になって、三ヶ月間(かん)は落(お)ち着かない日々(ひび)を過(す)ごした。三カ月たったとき、あたしの旅行鞄(かばん)が壊(こわ)れてしまった。
あたしはほっとして鞄に呟(つぶや)いた。「あなたのことだったのね。ごめんなさい」
<つぶやき>あの話し声は何だったんでしょう? 精霊(せいれい)たちの声だったのかもしれません。
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彼女は遠(とお)い宇宙(うちゅう)からやって来た。もちろん地球(ちきゅう)を征服(せいふく)するためだ。彼女はとある企業(きぎょう)に社員(しゃいん)としてもぐり込んだ。この企業は、地球の調査(ちょうさ)をするのに都合(つごう)がいいからだ。
――社員が集まる飲み会で、彼女はある男性社員から声をかけられた。
「君(きみ)って、ちょっと変わってるね。まるで宇宙人(うちゅうじん)みたいだ」
確(たし)かに、彼女はまだ地球人の独特(どくとく)な習慣(しゅうかん)を完全(かんぜん)には理解(りかい)していなかった。そんな彼女を見て、彼は冗談半分(じょうだんはんぶん)に言っただけだったのだが…。彼女に、そんなユーモアが分かるはずもなかった。彼女は危険(きけん)を感じたのか、身体(からだ)をこわばらせた。
彼女は、この男を始末(しまつ)すべきか考えた。しかし、彼女は思い止まった。この星(ほし)では、人間(にんげん)が突然(とつぜん)いなくなると大騒(おおさわ)ぎになることがある。もし、この男を消(け)してしまうと、社内(しゃない)が大変(たいへん)なことになるかもしれない。そうなると、地球征服の準備(じゅんび)に支障(ししょう)があるかもしれない。
そこで彼女は、この男を近くで監視(かんし)することにした。だが、男に近づくためには――。彼女はあることに気がついた。この星では異性同士(いせいどうし)が抱(だ)きついたりする習慣がある。もし、男のパートナーになることができれば、監視もしやすくなるだろう。
だが、彼女にとって人間の恋(こい)の駆(か)け引きは簡単(かんたん)に理解できるものではなかった。しかも、社内でこの男を狙(ねら)っている女が複数(ふくすう)いることが分かってしまった。どうやらこれは、地球征服よりも難(むずか)しいミッションになってしまうかもしれない。
<つぶやき>彼女の地球征服は成功(せいこう)するの? それとも、彼との恋が芽生(めば)えてしまうかも。
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出社(しゅっしゃ)した彼女は、自分のデスクの引き出しに見覚(みおぼ)えのない封筒(ふうとう)を見つけた。何だろうと封筒の中を見てみると、手紙(てがみ)が入っていた。読(よ)んでみると、お前の秘密(ひみつ)を知っていると書かれていた。秘密って…、彼女には思い当たることがなかった。気味(きみ)が悪(わる)くなったので、彼女はそれをごみ箱(ばこ)に放(ほう)り込んだ。
翌日(よくじつ)、また同じ封筒が入れられていた。入っていた手紙には、彼女を名指(なざ)しして脅(おど)し文句(もんく)が書かれていた。そして、返信(へんしん)を要求(ようきゅう)する言葉(ことば)が…。彼女は思わず呟(つぶや)いた。
「廊下(ろうか)の消化器(しょうかき)の下に置(お)けって…。まったく、子供(こども)かっ…?」
これは新手(あらて)の文通強要(ぶんつうきょうよう)なのか? 彼女は仲(なか)の良い同僚(どうりょう)に相談(そうだん)した。そして、犯人(はんにん)を捕(つか)まえようということになった。女性だけでは心配(しんぱい)なので、後輩(こうはい)の男性社員(しゃいん)にも声をかけた。
彼女は返信にこう書いた。<あなたは誰(だれ)なんですか? 私には秘密なんてありません>
その日の夜。ほとんどの社員は帰宅(きたく)していた。消化器は廊下の突(つ)き当たりにあって、ちょうど会議室(かいぎしつ)から見える場所(ばしょ)だ。女性二人がひそんでいると、男性社員が遅(おく)れてやってきた。
彼女は声をひそめて、「もう、何してたの? 犯人に見つかったらどうすんのよ」
彼はレジ袋(ぶくろ)を見せて、「お腹(なか)すくと思って…。買って来ちゃいました」
同僚の彼女がそれに答えて、「おう…。やるじゃない。じゃあ、朝までがんばるわよ」
「ちょっと待ってよ。朝までなんて…。そこまでしなくてもいいよ」
結局(けっきょく)、朝になっても誰(だれ)も現れなかった。でも深夜(しんや)の会食(かいしょく)は楽しいものになったようだ。
<つぶやき>犯人はいったい誰だったのか…。推理(すいり)してみませんか? 意外(いがい)な人物(じんぶつ)かもね。
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川相姉妹(かわいしまい)の戦(たたか)いは熾烈(しれつ)を極(きわ)めた。初めのうちは互角(ごかく)に見えたが、次第(しだい)に琴音(ことね)が優勢(ゆうせい)になっていく。初音(はつね)の動きが鈍(にぶ)り出すと、琴音はとどめを刺(さ)そうと倒(たお)れた初音に股(また)がり首(くび)に手をかけた。そして、両手に力を込めていく。
邪魔(じゃま)が入ったのはその時だ。見知(みし)らぬ男が突然(とつぜん)現れて、琴音を蹴(け)り上げたのだ。琴音の身体(からだ)は宙(ちゅう)を飛(と)び、地面(じめん)にうちつけられた。琴音は激痛(げきつう)に顔をしかめる。琴音が目をあげると、ちょうど大男が倒れている初音の胸(むな)ぐらをつかんでいるところだった。男は軽々(かるがる)と初音を持ち上げると、地面に投(な)げつけた。初音はまったく身動(みうご)きしなかった。男は初音に近づいて行く。琴音は、叫(さけ)び声をあげると男に飛びかかっていった。
力の差(さ)は歴然(れきぜん)だった。琴音の攻撃(こうげき)は何のダメージも与(あた)えなかった。男は琴音を捕(つか)まえると、拳(こぶし)を腹(はら)に打ち込んだ。琴音の身体は高く浮(う)き上がり、落ちて来たところを男につかまれた。男は、琴音を引き寄(よ)せると、大きな拳を振(ふ)り上げた。
琴音は、ここで初めて恐怖(きょうふ)を感じた。これで自分(じぶん)は死(し)ぬんだと思うと、今までの出来事(できごと)が走馬灯(そうまとう)のように浮かんできた。そして、初音と過(す)ごした幼(おさな)い日々(ひび)も――。
男は琴音の顔に容赦(ようしゃ)なく拳を振り下ろした。だが、どういう訳(わけ)か、寸前(すんぜん)で拳は止まった。
「させないわよ」初音のか細(ぼそ)い声が聞こえた。初音の身体から青白(あおじろ)い光が発(はっ)していた。初音が能力(ちから)を発動(はつどう)させたのだ。男の拳が少しずつ押(お)し戻(もど)されていった。
<つぶやき>どこから現れたのでしょうか? これは幻影(げんえい)なのか、それとも現実(げんじつ)なのか…。
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教室(きょうしつ)でポテトチップスの大袋(おおぶくろ)を開(あ)けてむしゃむしゃと食べている女の子。それを見た友達(ともだち)が呆(あき)れた顔で言った。
「何やってるの? 教室にお菓子(かし)なんか持って来ちゃダメじゃない」
女の子は口をもぐもぐさせながら、
「だって、無性(むしょう)にお腹(なか)が空(す)くのよ。仕方(しかた)ないじゃない」
女の子のお腹(なか)がグーっと鳴(な)った。授業が始まっても、女の子は先生(せんせい)に見つからないように食べ続(つづ)けた。しかし、むしゃむしゃ食べる音はどうすることもできない。
先生にお菓子を取り上げられた女の子。しばらくは我慢(がまん)していたが…。またお腹(なか)が大きな音を立てた。数分後、女の子は教室で倒(たお)れてしまった。
すぐに病院(びょういん)に運(はこ)ばれた女の子。駆(か)けつけて来た母親(ははおや)に、お医者(いしゃ)さんは病状(びょうじょう)を説明(せつめい)した。
「これは、腹(はら)の虫(むし)の仕業(しわざ)ですなぁ。そいつのせいで、いくら食べても満腹(まんぷく)にならないんです。だから食べ続けるしかない。でも、もう心配(しんぱい)ないですよ。虫下(むしくだ)しを飲(の)ませましたので、すぐに良くなるでしょ。最近(さいきん)、何か変わったものを食べてませんかねぇ?」
母親は首(くび)を傾(かし)げて、心当(こころあ)たりはないと答(こた)えた。お医者さんは残念(ざんねん)そうに言った。
「そうですか…。実(じつ)は、娘(むすめ)さんのお腹(なか)から出てきたのは、どうやら新種(しんしゅ)みたいなんです。このところ同じ病状の患者(かんじゃ)が増(ふ)えてまして、どこかに感染源(かんせんげん)があるはずなんですが…」
<つぶやき>食べても食べても満腹にならなかったら…。あなたのお腹(なか)にもいるかもよ。
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